秋場所の金字塔に導いたもの ~新大関誕生と貴景勝引退考
9月の大相撲秋場所からは、国技を下支えする大切な事柄がいろいろと浮かび上がってきた。関脇大の里が13勝2敗で2度目の賜杯を抱き、大関昇進。世代交代が進む中でベテランが史上1位記録を更新したり、大物力士が土俵を去ったり―。早くも秋巡業が始まった状況で、秋場所関連の出来事を多方向から振り返ってみた。
偉業に不可欠なもの
歴代新記録を打ち立てたのは39歳の玉鷲。2004年初場所に初土俵を踏むと、秋場所3日目に青葉城を抜いて単独史上1位となる通算1631回連続出場をマークした。徹底した突き、押し相撲。力士の大型化が進み、とかくけがのリスクが高くなったとされる現代において特筆すべき偉業といえる。 2度の幕内優勝を飾っている玉鷲は、ジムでのウエートトレーニングをほとんどしないという。一貫して四股やすり足の基礎を重視。力士4人と小所帯の片男波部屋でも、ときには幕下以下2人を相手に相撲を取るなど工夫を施し、けがをしにくい、または故障に強い体をつくり上げてきた。秋場所は東前頭10枚目で無事に15日間を皆勤。三役復帰への意欲を口にした〝鉄人〟ぶりを目の当たりにすると、基礎運動や肌を合わせての稽古といった伝統的な鍛錬法の重要さを改めて感じさせた。 第61代横綱だった日本相撲協会の八角理事長(元北勝海)も、同じようなことを口にしていた。現役時代は突き、押しを軸とした攻めで最高位に上り詰め、優勝8回。武器の一つには右おっつけがあり、兄弟子の横綱千代の富士との猛稽古で身に付けた。「脇を締めておっつけないと威力は伝わらない。いくらバーベルを上げて筋肉をつけても、実際に生身の人間をおっつける稽古をしないと体が覚えない。だから現役時代はバーベルを使っての筋トレはせず、千代の富士さんとの稽古で脇から肩の間が鍛えられた」と説明した。スポーツ界で科学的な知見が増えている昨今でも、常人離れのことを成し遂げるには、昔から伝わる地道な稽古が必要不可欠ということになる。