安藤優子×浜田敬子×星薫子が語る「子持ち様」問題。分断が誰をも苦しめる
人権意識の低さが生み出した「子持ち様」問題
安藤:「日本国内に目を転じると、『女性は女性らしくあれ、男性は男性らしくあれ』という言葉で男女の役割の決めつけを行なってきたことによるひずみが出ています。日本の社会は、押し付けられた女性らしさ、男性らしさに疑問を感じることなく『らしくあろう』と努力してきた人たちと『らしくなくていいじゃん』と自分の価値観に基準をおいている人たちに分断されてきているような気がするんです。だから『子持ち様問題(注1)』も起こる。子を持つ、持たないで分断される。本来、生き方は自由で、持つ持たないではなくどう生きているかの問題なんですよ。日本の人権意識の希薄さが子持ち様問題を生み出していると思います。 ---------- 注1「子持ち様問題」:「子持ち様が『お子が高熱』とか言ってまた急に仕事休んでる。部署全員の仕事が今日1.3倍ぐらいになった」。2023年11月のこんなX投稿から賛否両論が渦巻いた。 ---------- そもそも残業を強いられるのは誰かが子どもを生んだからではなくて、そんな状態にしている企業のシステムの問題なわけ。子持ち、非子持ちの問題ではなく、これは生き方の問題だから人権として人それぞれの生き方をきちんとリスペクトする意識が根づいていれば子を持っていること、子を持たないことそれぞれの生き方を受容できるはずなんです。鋳型にはめて『らしくあれ』と言い続け、生き方の自由を狭めてきたから、他者の生き方を受容するために必要な自己肯定感がどんどん低くなってしまったんですよね。自己を受容できないから当然、他者も受容できない。 結婚するもよし、しないもよし、子育てするもよし、同性婚もよし、人それぞれの生き方を尊重することは1人1人の人権をリスペクトすることだと思います。子持ち、非子持ちで否定と誹謗合戦を続けていたら連帯はできません。連帯する意識が育たないと、日本は女性も男性も風通しよく自由に生きられない気がします」 浜田:「そうなんですよね。女性の人権が軽視されているということは一方で、男性の人権も軽視されているということでもあります。たとえば、社畜という言葉に表されるようにプライベートなく会社に人生を捧げてきた男性がこれまでいました。機械の部品のように扱われてきたことで自己肯定感が低くなってしまった男性の中には女性を仮想敵のように感じる人もいると思います。自分たちがこれだけ辛い思いをしているのに、いきなり『女性管理職を増やせ』と会社がなれば、女性優遇だ、逆差別だ、誰かがズルをしているんじゃないか、自分は損をしているんじゃないかと思ってしまう。これが分断につながっているのだと思います。 毀損されているのはマイノリティだけではなくマジョリティ側も毀損されているのだということに気づいて、問題は『誰か』にあるのではなく人を取り巻くシステムのせいなんだと気づく必要があるんです。でもこれに気づけない。それは、気づかせないように意識のすり替えを行うことによって権力を維持している男性が一部にいるからだと思います」 ◇続く鼎談第2回「安藤優子×浜田敬子×星薫子が見た「母・妻・娘」ケアの担い手として女性が受けた差別」では、『白い拷問』を読んで何を思い、何を考え、何を伝えていくべきか3人の思いがあふれます。 構成・文/中原美絵子
安藤 優子(ジャーナリスト)/浜田 敬子(ジャーナリスト/前Business Insider Japan統括編集長)/星 薫子