出し惜しまないトヨタとオールジャパン 寺師副社長インタビュー(3)
[映像]トヨタ寺師副社長インタビュー
トヨタ自動車が月面探査プロジェクトに乗り出す。その挑戦は、地上でのクルマ技術を月でも実現する「リアルとバーチャルの融合」だと、豊田章男社長の言葉を借りながら語るのは、副社長の寺師茂樹氏だ。電気自動車(EV)対応が遅れていると揶揄されることの多い同社だが、世界的な潮流である電動化という次世代戦略を、トヨタの技術トップはどう考えているのか。モータージャーナリストの池田直渡氏が余すところなく聞いた。全5回連載の3回目。 【画像】EVかFCVかじゃない、2050年のトヨタ 寺師副社長インタビュー(4)
◇ 向こう10年間の地球環境に貢献することを考えれば、実際にユーザーに選んで買ってもらえるという意味で、ハイブリッド(HV)が現実解であると言うトヨタだが、時代とともに、プラグインハイブリッド(PHV)や電気自動車(EV)、燃料電池車(FCV)の比率が上がって行くはずだ。 トヨタの面白さは、メーカーとしてHVからPHVへ主流が変化すると予測しつつも、それを選び決めるのはあくまでもマーケットであるというスタンスを崩さないところだ。だからトヨタは全ジャンルの商品を揃え、市場が自由に選択できる様にする。そしてそれは少数派への商品供給という意味も持つのだ。 ところがトヨタは、そうした幅広い技術、それも未来に主流になっていくはずのEVやFCVの技術を他社に公開し、搭載するための技術供与まで行うと言う。その理由を尋ねてみた。
“トヨタは、今世界のシェアのうち11~12%くらいしか持っていません”
池田:地域地域で違うエネルギー事情を考えると、グローバルメーカーとしてのトヨタは、全部に備えなければならないということですよね。だとすると「電動化のフルライン化」みたいなことをやらなきゃならないわけですか。 寺師:ええ。最近社長がうちは電動化のフルラインナップメーカーだって言ってるんですけど、ちょっと考え方を変えないといかんのじゃないのかって思ってまして、HVのときもそうだったんですけど、「自分たちで」じゃなくて、「自分たちも」に変わらないといけないんです。要は仲間を増やしてみんなでやるっていう発想がこれまで弱かったと思うんですよね。 例えば、僕たちがクルマを製造してお客さまに買ってもらいましょう、ってやってきたんですけど、トヨタは、今世界のシェアのうち11~12%くらいしか持っていません。 池田:世界の10%超えってすごい数字ですけどね。 寺師:いえいえ。だけど、地球環境のために普及をさせるっていうことでいくと、これをみんなが一緒になってやっていかないとダメだよねっていうことなので、例えば「EV C.A.Spirit」っていうトヨタ・マツダ・デンソーで立ち上げたEVの基盤技術開発のための会社も、今ではメンバーが増えて9社が集まっています。EVの基盤技術は9社みんなで一緒に開発して、それぞれがそれを使ってEVをつくろうねと、この考えはFCVでもたぶん使えると思っています。 池田:素朴な疑問なんですけど、EVにしてもFCVにしても競争領域の非常に重要な技術じゃないですか。それをオープンにしていくっていうことがなぜ可能なんですか。 寺師:最新技術と言っても、今作っている世代のものをお使いいただくっていうことですから。その世代の1つ先、2つ先っていうのは、僕らはもうやっているわけですよね。だから最新技術を公開したから、もうトヨタは競争力を失うってことじゃなくて、次も、その次もまた頑張れば良い。ある意味自分たちで自分たちを追い詰めているところもあるんですけど、特にHVの時の反省として、僕たちの技術に一緒に付いて来てくれる方が少なかったと。