出し惜しまないトヨタとオールジャパン 寺師副社長インタビュー(3)
“FCVはシェアのコンマ何%。普及のためには、トヨタだけではたぶんなんとも広がらない”
寺師:FCVも特許をオープンにしました。いろんな引き合いはありましたけど、じゃあいろんなところが付いてきてくれたかっていうと付いてこなかったんです。だからさっき言ったように自分たちがクルマを出すっていうことにとどまらず、例えば色んな方々にトヨタのスタック(発電心臓部)と高圧水素タンクを使ってくださいって言って、「それ頂戴、それでつくるわ」っていう会社さんがあれば、僕たちはそれを提供するっていうのはもう全くやぶさかではないし、それを搭載して適合するのに必要な技術が要るのであれば、それもどうぞと。当然有償にはなると思うんですけど。 FCVはまだ自動車全体のシェアのコンマ何%しかありません。それが普及していくためには、トヨタだけではたぶんなんとも広がらない。みんなと一緒に協力ができるんだったら提供しましょうよっていうことなので、電動化のフルラインナップメーカーではあるものの、従来の自動車メーカーとしての側面だけじゃなく、システムサプライヤーみたいな仕事もやっていくつもりです。 それと別に僕たちがずっと直接対応をしなければいけないっていうことではなく、いろんな技術サポートをしてくれるエンジニアリング会社ってたくさんあるじゃないですか。例えばそういうエンジニアリング会社と一緒になって、他メーカーさんへのシステム適合を1回やれば、このエンジニアリング会社は次からもうトヨタのサポートなしでもできます。僕たちの技術を、あるものを使っていただくことによって仲間が増えてくる。従来は一緒にやりませんか、やりませんかって言ってても、ハードルがやっぱりあるので難しかったんです。だからお手伝いできるところはお手伝いしますので、一緒に仲間を増やしませんかというのが今のトヨタのスタンスです。 池田:私が想像していたのは、技術を開発する過程ではいろんな試行錯誤があって、実は失敗の経験こそが財産で、最終的な答えだけ見せても、競争的な優位は揺るがないというふうにトヨタは考えているのかなと思ったんですが、そうではないんですか。 寺師:もう全然違います。ええ。だから情報だけ開示して、ほら自分でつくってごらんよということではなく、さっき言ったように特許で押さえているものに加えて、適合にはノウハウがありますし、その経験だとかも含めていろんなものがないとクルマには最終的には仕上がらない。だからそういうところのお手伝いもしますよ。 池田:そのノウハウも出してしまう? 寺師:出しましょうと。というぐらいのことをやらないと、このゼロエミッションのクルマは広がっていかないんじゃないかって思って、できる限りお役に立てればなと。 池田:そうするとやっぱりある種の社会貢献的事業ということなんですかね、エコに関して言えば。 寺師:トヨタ自動車もやっぱりちゃんとした一企業なので、単純に持ち出すだけではなく、やはりこういう技術が広がっていくことによって、競争が激しくなってそれに背中を押されてわれわれがまたさらに一歩進み、いろんなものを使っていただけて、部品が欲しいと言われれば買っていただいて、その部分で収入を得ると。 池田:そこはバランスなわけですね。 寺師:ええ。 池田:企業経営という部分のバランスと、それから地球の環境を本当に良くするためにはいくらトヨタが大きいとはいえトヨタの製品だけではダメだから、じゃあその両方のバランスを取りながら社会貢献しつつ企業としての利益も上げていくと。その2つの目標を同時に叶えるブレークスルーを今やろうとしているということですね。 寺師:そういうことをやろうとすると、これまでのトヨタはあまり信用がなかったのか、「あいつらまたなんか考えてんじゃねえのか」みたいな。そうならないように、ここ数年間はいろんな会社さんと一生懸命仕事をやるっていう、僕たちの内側の問題もだいぶ解決できてきました。これから先は、ひょっとしたらもう日本にとどまらず、海外のメーカーとも仲間になっていかないといけないんじゃないかと。さっき欧州委員会の資料を見てもらったように、みんな薄々HVが当面の一番実効のある解の1つだっていうふうには思ってると思うんですね。 例えば今回のジュネーブモーターショーの記事を見ると、表面的にはいろんなところでEV花盛りに見えますけど、よく見るとルノーさんが「HVを出す」って言ってみたり、ホンダさんが「25年には全部電動化にするよ」と言ってみたり、あれは全部EVにするって言ってるんじゃなくてたぶんHVだと思いますし、日産さんが「e-POWERを欧州でも」って言いだしているのはやっぱり当面の課題解決にはHVが一番効果的だっていうのは皆さん判断は変わらないんじゃないかと。 池田:そうですね。ただでさえ「クルマは高くなった」と言われる中で、普及させるということを考えると、今のクルマの値段プラスアルファぐらいで売れなければ難しいですよね。走行用バッテリーは現状では部品としてあまりにも値段が高すぎるので、EVに必要な容量を積もうと思うと車両価格の4割とかがバッテリーに占められてしまう。そうするとよっぽどのブレークスルーがない限りやっぱり今、売っているEVの値段になってしまう。あるいはバッテリーをケチって航続距離を我慢するか、装備を落とすか。だけど例えば、300万円ぐらいのラインで普通の人に十分に訴求できる商品力で売ろうと思うと2019年現在としてはHV、特にマイルド・ハイブリッドがたぶん一番有効なんでしょうね。 寺師:そうなんでしょうね。少なくとも今は。僕たちの長期的課題は、マイルド・ハイブリッドとか、僕たちのストロング・ハイブリッドとか、その次のPHVとか、規制が厳しくなって行った時どうするのかと。欧州委員会の規制と、たぶん中国も日本もアメリカも、だいたい同じようなところの目標値になると思うんですね。そうすると、今のHVの賞味期限はどの辺までなんだろうっていうのが次の問題になってきて、たぶん2030年の目標がこの間、欧州で出ましたけど、その規制値をクリアしようとするともう今のプリウスではダメなんですね。 池田:あの数値を見るとそうでしょうね。