円乱高下は今後起きることの予兆に過ぎず-激しい動き、より頻繁に
(ブルームバーグ): 4月29日の朝、東京で多くの人々がゴールデンウイークの休日を楽しむ中、渋谷にあるトレイダーズ証券のオフィスでは同社の井口喜雄市場部長が厳戒態勢にあった。
既に不安に覆われていた外国為替市場では、34年ぶりの円安水準を付けた円相場を反転させることを狙った市場介入に対する警戒が強まっていた。日本銀行が4月26日の金融政策決定会合で下した決定は予想外にハト派的で、これで為替相場の方向が変わる可能性は低いと考えられていた。円の弱気派は勢いづき、日本の連休で取引は薄くなっていた。
市場歴20年のベテランである井口氏が警戒したのは正しかった。その日の午前10時半ごろ、円は急激に下落した。
1ドル=160円台への急落は、直ちに国内のニュース報道やソーシャルメディアをにぎわせた。警戒を緩めてはならないと連呼していた井口氏は、あまりにもスピードが速く何もできず、「ストップがついてしまったかという心境で『行ってしまったか』とつぶやいていた」と振り返る。
それまでにいわゆるレッドラインと見られていた水準である155円と158円は、押し戻されることなく突破されてきた。当局が動くことはないのだろうかという声も出始めていた。
そして午後、相場は急反転した。数分のうちに円は対ドルで3%近く上昇し、その日の動きを帳消しにする以上の上げが見られた。当局が円を支えるために22年以来の介入を実施したのではないかという観測が市場を駆け巡った。介入はまだ確認されていないが、日銀が4月30日に公表した5月1日の当座預金増減要因の予想値と市場の推計値との差に基づくと、約5兆5000億円の円買い介入が行われたと推定される。
29日の為替介入は5.5兆円規模の可能性、日銀当座預金見通しが示唆
CMEグループによると、4月29日は2016年以降で円のスポット取引が最も活発に行われた日となった。他国との大きな金利差を背景に、かつて「世界で最も退屈な通貨」の一つと呼ばれていた円が最も投機的な通貨の一つへと変貌したことを示している。深い構造的な問題が解決されない限り、当局は介入を繰り返すことを余儀なくされるとの予測は、激しい変動がより頻繁に起きることを示唆し、その影響は日本にとどまらず、幅広く及ぶだろう。円安はドル高を加速させ、他のアジア通貨を不安定にさせるリスクもある。