なぜ介護報酬不正請求などの「コンプラ違反」は絶えず起きるのか?ビジネスマン・エッセンシャルワーカー・正義の人、介護業界参入3パターンから見えてくる理由
いかにしてコンプラ違反をなくせるか
三者三様の特性によって起こるコンプラ違反ですが、はっきりしていることは介護業界において事業者は「行政の下請け」ということです。かつて行政が行っていたことを代行するようになり、その対価として給付金をもらって運営しています。自分たちで稼いでいるわけではありません。 多くの市場において、親会社に嫌われた下請け業者が消えていくのと同様に、行政は我々をつぶすことができます。ですから、この仕事に携わる経営者は、たとえそれがビジネスが動機だったとしても、エッセンシャルワーカー出身だったとしても、社会正義を追求する人だとしても、コンプラ遵守は非常に重要です。 会社経営と同じですね。経営陣と従業員、経営陣と株主との関係がある中で、日々仕事をしていると、自分に給料を払っている人が経営者であることや、自分自身の生殺与奪権を株主が握っていることを忘れてしまいます。そして一生懸命仕事をしているうちに経営者の意に沿わない所にどんどん逸脱していき、ある一線を越えてしまった時には、突然ぷつっと切られてしまったりするわけです。これが、コンプラ違反をする事業者と行政の関係に似ていると思います。 つまり、事業者は介護業界の構造を自覚し、自分たちの置かれている構造を時折思い出すことが必要です。我々はコンプラ違反をしたら経営が続けられなくなる構造になっている。事業を行っているうちに、バックに行政がいることを忘れてしまいますが、自分たちに給付金、あるいは給料を払っているのは誰なのか。そして、その人たちはどういうルールを自分に課しているのか、それを思い出す必要があると思っています。 とはいえ、法は可変的なものでもあるので、法を守っておけばそれで済むということではありません。法は守るべきものでもありつつ、変革すべきものでもあるという中で、変革するというときに、何を根拠に法を変えるのかが大事なポイントになります。そこに、我々のできることもあります。 法は神様から降りてきたものではなく、国会議員が議論して立法府が決めることですから、立法府の人たちに、「この法はおかしい。現場の実態に合っていない」というのを多くの人が伝えることにより、その法自体がなくなったり、形が変わったりする可能性があるわけです。なので、業界団体や経営者、リーダーシップを取る人は、そういった役割も同時に有しているということは、法令遵守がいかに大事かということを大前提とした上で、忘れてはいけないと考えます。 高浜 敏之 株式会社土屋 代表取締役 兼CEO 慶応義塾大学文学部哲学科卒 美学美術史学専攻。大学卒業後、介護福祉社会運動の世界へ。自立障害者の介助者、障害者運動、ホームレス支援活動を経て、介護系べンチャー企業の立ち上げに参加。デイサービスの管理者、事業統括、新規事業の企画立案、エリア開発などを経験。2020年8月に株式会社土屋を起業。代表取締役CEOに就任。
高浜 敏之