よちよち歩きの「巨体」で人気爆発、キングペンギンの「ペストくん」はこれからどうなる?
茶色の羽毛はなぜなくなるの?
野生のキングペンギンは一般に、孵化(ふか)から13カ月ほどで最初の換羽(かんう。綿毛のような羽毛が抜ける)の時期を迎える。ペストくんは2024年の1月生まれなので、少し早い。 キングペンギンは南半球の夏から秋に誕生する。野生のキングペンギンは南半球の寒い冬の間は絶食するが、冬が始まるまでに十分にエサを与えられなかったヒナは、親がエサを与えに戻ってくる春を待たずに餓死することも多い。再びエサをもらい、体に脂肪を蓄えられるようになって初めて、羽毛を生えそろえるのに十分なエネルギーを得られるのだ。 「飼育環境にあるヒナは、継続的に食事が与えられるため、羽毛が早く生えそろうことがあります」と、イタリアにあるマルケ工科大学の進化生物学者でキングペンギンを専門とするエミリアーノ・トゥルーキー氏は説明する。ペストくんは冬の間、養親のタンゴとハドソン、そして水族館スタッフのおかげで、エサをたっぷりと与えられた。 「ペンギンのヒナとして育つということは、空腹と満腹を繰り返すようなものです」と、オーストラリア南極プログラムのペンギン専門家であるバーバラ・ビーネッケ氏は語る。「ペストくんは、野生のヒナとは比べものにならないくらい多くの食べ物を与えられてきたし、当然、長い冬の断食も経験していません」
成長するとスリムになるの?
ペストくんの実親であるブレイクとマチルダは、ヒナを育てるには高齢だったため、ペストくんは「養子」に出されることになった。野生の世界でも珍しいことではない。キングペンギンは、卵が氷の上を転がっていると、つかまえて自分の育児嚢(いくじのう)にひょいっと入れるような動物だ。 ペストくんの立派な体格は、「遺伝と環境によるものだ」とアーリー氏は言う。ブレイクから受け継いだ背の高さと、食べ物が豊富な飼育環境が相まって大きく育った。 「野生では、大きな体は必ずしも有利には働かない」とビーネッケ氏は指摘する。「ペンギンにはもともと浮力があり、体脂肪でさらに浮力は増します。体脂肪が多ければ多いほど、潜るのが難しくなります」。羽毛の生え替わりには膨大なカロリーを必要とするので、ペストの体はすこし小さくなり始めている。 「羽毛の生え替わりは非常に多くのエネルギーを消費します」と、トゥルーキー氏は言う。「新しい羽毛を生やすために、体脂肪や皮下脂肪といった、それまでに蓄えていたエネルギーを大量に使う必要があります。小さなヒナにとっては、大きな変化です」 トゥルーキー氏によると、ペストくんはあと3週間もすれば急激にスリムになるだろうとのこと。大人の羽毛に生え替わり、大人の筋肉をつけようとするためだ。大人の羽毛と筋肉はどちらも、今後、泳ぎを覚え、独り立ちするうえで必要となる。