久住昌之が武蔵や政宗も入ったとされる<佐賀・武雄温泉>へ。「竜宮城」のごとくド派手な新館の設計者は誰もが知るあの駅も手掛けていて…
◆武雄温泉の新館を設計したのは…… 話を戻すと、初の武雄温泉では温泉旅館を取ってもらったのだが、編集者によると、武雄には立派な公共温泉があるから、ぜひ入るべし、とのこと。 そして来てみれば、宿の目の前に、朱色の大きな楼門が立っている。 「……なにこれ? ……竜宮城!?」 と、頭の中で言ってしまった。 そこが、まさに武雄の公共温泉だった。なんでこんなに派手に。 それをくぐると、奥には昔の吉原の遊郭か? というような、朱色をふんだんに使ったこれまた立派な二階屋の建物がある。さらになにこれ? である。ここ、温泉じゃないの? そこは、たしかに武雄温泉の新館だった。「国指定重要文化財」と書いてある。設計したのは、なんと東京駅を設計した辰野金吾。 え、なんでそんな人が、九州のこんな山の中の温泉銭湯(失礼)を、こんな特異な形に設計したんだ? なぜそんな企画が通ったんだ? エラクお金がかかってそうだけど、誰がそんな大金出したんだ? 竜宮城の前で、謎が頭の中をぐるぐるした。
◆地元民で賑わう旧館へ その晩は宿の風呂に入り(これも十分気持ちよかった)、翌朝7時、朝食前にその竜宮城的公共温泉に入りに行った。辰野金吾の遊郭的新館でなく、その隣にある、地元の一般客が入っている旧館(元湯)の方に行く。 そこは古い大きな木造の建屋で、入場料は400円。安い! 東京の銭湯以下だ。 入ると、その時間なのに、すでにたくさんの人で賑わっているではないか。 湯上がりの人々が、通路にある長椅子に座って、テレビを見ながら談笑している。観光客らしい人は見当たらず、顔見知りの地元民ばかりのようだ。 「どーも」 「あぁ、どーも、急に寒うなったなぁ」 とニコニコ挨拶している。そして見ず知らずのボクにまで、湯上りの顔のおばちゃんが会釈してくる。 ここはどこ? 今はいつ? その昔、銭湯が社交場だった頃の、和やかでのんびりした空気が、古い廊下に温存されている。世知辛い東京から来たばかりのボクは、なんだか涙が出そうな気持ちになった。 浴室内も木造で、天井が高く、高窓からの朝日に照らされた梁や柱は、古寺のごとく年季が入っている。これは確かに「入るべし」だ。 湯は透明で、匂いもない。でも手を入れた肌触りはやわらかく、やっぱり温泉だ。 最初熱くて、少し我慢して浸かっていたが、じきに肌が馴染んだ。馴染んでしまうと、出たくないほど気持ちいい。 それより、湯から上がった時の肌が、実にさっぱりして清々しい。こりゃ湯上り最強の温泉だな、というのが、その時の感想。