「家の屋根だけが見える」 9月中旬の大豪雨からウイーンを守ったドナウ川治水システムの「凄さ」 欧州第二の大河はなぜ洪水を起こさなかったか
9月13日から16日にかけて豪雨が中央ヨーロッパを襲った。「ボリス」と名付けられたこの暴風雨は、ドイツ、オーストリア、チェコ、ポーランド、イタリアなど8カ国以上を襲い、200万人を超える住民が影響を受けた。 【写真で見る】ドナウ川の水位がギリギリに。倒木に交じって無数のカボチャが次々と上流から流れてくる光景は異様だった ■気温が30℃→10℃に一気に下がる 温暖化によって過去最高に水温が上昇した地中海。その上空に北から寒気が流れ込んだことが、雨量増加の原因となった。気温は30℃から10℃まで一気に下がり、高度1000m以上では季節外れの大雪となった。猛暑から突然の冬の到来だ。
この豪雨により中央ヨーロッパの川が氾濫、1万人以上が避難を強いられ、21人が亡くなった。一方、100~1000年に一度といわれる水量を記録したオーストリアの首都ウィーンでは、河川はからくも洪水をまぬがれ、避難者や被災者もほぼゼロだった。 欧州第二の大河ドナウ川は、なぜ洪水を起こさなかったのか。世界100カ国以上の現地在住日本人ライターたちの集まり「海外書き人クラブ」の会員である筆者が、ウィーンを守った治水システムを紹介する。
【写真15枚】水位がギリギリになったドナウ川。川沿いにつくられた散歩道やサイクリング道、テラスカフェテラスは水没した 大雨と強風が予報されていた9月13日、筆者はウィーン市街地にいた。日本では気温が30℃を軽く超えた日だが、ウィーンは8℃で風も強く、コートとレインウェアを着て長靴を履いた。とにかく寒く、強風で傘は使い物にならない。 ■ウィーン市街地の「嵐の前」 この日は豪雨初日。まだ川の水位は上がっていないが、市街地の一部はすでに浸水し、回り道をしなければ通り抜けられない箇所もあった。アルプスでは雨ではなく、大雪が降っていると聞いた。
夜には雨脚が強まった。駅には乗客の姿もほとんどなく、金曜日の夜としては異様な光景だ。 週末も容赦なく豪雨は続く。市からは「不要不急の外出は避けるように」と通達があり、ウィーン市の周りを取り囲むニーダーエースタライヒ州の被害が報じられるようになった。各地のダムの貯水量が上限に達し、川にあふれ出し、近隣住民が避難する様子も報道された。 多くのウィーン人は自宅に引きこもり、もしものときに備えて買い出しや備蓄をしつつ、ドナウ川の動向に注目していた。