「家の屋根だけが見える」 9月中旬の大豪雨からウイーンを守ったドナウ川治水システムの「凄さ」 欧州第二の大河はなぜ洪水を起こさなかったか
水没していた川沿いの散歩道が再び姿を見せ、水鳥が餌をついばんでいる。サイクリング道に残った大量の泥をショベルカーで集めてトラックで運び出す作業が急ピッチで進み、テラスカフェの従業員が営業再開に向けて準備していた。 ウィーン川とドナウ運河も通常の水位に戻った。 1000年に一度の大増水でも氾濫しなかったのには理由があった。ウィーン市街地には複数の地下貯水池と地下トンネルがあり、その容量の限界まで水を貯めつつ、微調整による放水が繰り返されていたのだ。そのため、川はギリギリ決壊しない水位を保ち続けた。
■起こりえた被害を防ぐインフラ ウィーンは、遊水池ノイエドナウの水門開放と、地下貯水池の適切な運用により、過去最悪ともなりえた水害からまぬがれたのだ。 多くの人にとって、今回の豪雨は、「思ったほどの被害をもたらさなかった」と感じられるかもしれない。しかし、その裏には、何百年と積み上げられた治水テクノロジーとインフラ、そしてそれを運用する人々の手があった。
御影 実 :オーストリア・ウィーン在住ライター・ジャーナリスト