「家の屋根だけが見える」 9月中旬の大豪雨からウイーンを守ったドナウ川治水システムの「凄さ」 欧州第二の大河はなぜ洪水を起こさなかったか
ドナウ川はドイツ南部に水源をもち、オーストリア、ハンガリー、ルーマニアなど中欧・東欧10カ国以上を通って黒海に注ぐ、ヨーロッパで2番目に長い大河だ。 中欧の歴史は、ドナウの氾濫の歴史だ。 何度も洪水に苦しめられてきたウィーンでは、19世紀後半にハプスブルク家の大改修により、蛇行していたドナウ川は直線に近くなった。1970~1980年代には、本流と並行した2本目の川「ノイエドナウ(新ドナウ)」を掘り、幅250m長さ21kmの細長い人工島を建設する大工事が行われた。
■「世界初の洪水防止策」と賞賛 ドナウ川を縦に2つに割り、片方の川の入り口に水門を設けることで、水がせき止められたノイエドナウと、本流を分けたのだ。雪解け水や上流の降雨などで水位が上がると、水門を開放して洪水を防ぐ仕組みだ。 この治水工事は、国際連合人間居住計画(UN-HABITAT)により「真に多目的で完全に持続可能な、世界初の洪水防止策」と称賛された。 ドナウ川はウィーンを斜めに横切る最大の川だが、ウィーン市街地にはドナウ川の支流であるドナウ運河とウィーン川もある。これらの流れが1つでも決壊すると、ウィーン市内で多大な被害が出ることは、火を見るより明らかであった。
雨音と不安で眠れぬ夜が明けた15日、ニュースが飛び込んできた。 普段は高さ5~7mのコンクリート製護岸壁の底にちょろちょろと流れる程度のウィーン川が、濁流となってあふれかけている映像だ。 ウィーン川は市街地の地下鉄と並行しているので、線路が水浸しになった。ドナウ運河も、船着き場が浸水し、茶色い濁流が流れている。どちらが氾濫しても、街はパニックになるだろう。普段とまったく異なる川の姿に恐怖を覚えた。
高速道路に水があふれ、地下鉄が次々と運休し、鉄道が止まるニュースが駆け巡る。隣のニーダーエースタライヒ州は全土が災害地域に指定され、多くの住民が避難対象となるなか、ウィーンはどうなってしまうのか。 ■ここでは家の屋根だけが見える 隣の州に住む知人からも、被害の報告が相次ぐ。水道管があふれて地下室すべてが水没した家など、身近なレベルでも被害が絶えないという。消防は「人命救助を優先するため、地下室の浸水程度の被害では呼ばないでください」とラジオで呼びかけていた。