無機化合物の結晶構造を計算コストかけず網羅的に探索、経験則を不等式で表すのがミソ 東大
拘束条件としたのは「最密球充填構造」「化学結合」「配位多面体」「多面体の連結」の4つ。最も重要なのが「最密球充填構造」で、陰イオン(アニオン)が最も密になる最小距離をとるような不等式条件とした。「化学結合」についてはアニオンと金属の陽イオン(カチオン)のあるべき距離を不等式条件で表した。「配位多面体」はカチオンと結びつくアニオン数を等式で表した。「多面体の連結」は多面体が結びつく時に、点か辺、面のどこでくっつくかで強さが異なることを不等式で表した。
結晶構造の探索では、カチオンが取り得る大きさごとに11個を想定した「モデルカチオン」を、物質を構成する元素ごとに対応させる。原子番号が近く似ている元素ごとに微妙に異なるパラメーターで計算するより、大きさや形は概ね同じになるモデルカチオンで計算した方が効率的で、結晶構造探索の手間が省ける。
開発した探索法で、2価のアニオンである酸素イオンと、酸素イオンと同じ大きさのカチオンA、八面体のカチオンBを3:1:1の比率で混ぜたとして、パソコンで計算してみると、20分余りで4つの解が見つかった。4つともペロブスカイト構造など実験的に知られた結晶構造であり、最適解を得ているらしいと判断できた。他にも、超伝導体となる銅酸化物の構造や、構成部分にイオン結合のような柔らかい結合が見られるアルファ(α)パイロクロア構造を再現することもできたという。
数理計画問題に基づく結晶構造探索法は、最適解の候補を絞りこむことで計算コストを抑えているが、最後は第一原理計算を用いて最適解を出す。小正路研究員は「計算コストを少なく網羅的探索をすることで意外な結晶構造を見つける機会が増えれば、材料探索からデバイス応用までの研究プロセスを加速できる」と話す。
研究は米物理学会の科学誌「フィジカル レビュー マテリアルズ」電子版に11月6日付けで掲載された。