柴咲コウ×黒沢清監督。映画『蛇の道』インタビュー
「黒沢監督には、私の精神的な部分を見抜かれているなと思います」
どんな時でも己を貫く、黒沢清監督作品のハードボイルドな主人公たち。特にそれが女性だと、日本映画にそういったキャラクターが多くはないせいか、なおさらグッときてしまう。そんなたくましさを今作でみせてくれるのが柴咲コウさんだ。『蛇の道』(6月14日より公開中)は、1998年発表の黒沢清監督・高橋洋脚本による同名Vシネマを、監督自ら脚本を書き直し、主役を男性から女性に、舞台を東京からパリに移してセルフリメイクしたもの。ユニークな制作経緯を辿ったこの映画で、柴咲さんはダミアン・ボナールやマチュー・アマルリックら世界的に知られるフランス人俳優と共演し、ほぼ全編仏語による復讐譚を堂々と演じている。孤高の報復者である小夜子という役がどのように作られたか、二人に聞いた。 【記事中の画像をすべて見る】
──柴咲さんが『蛇の道』で演じたのは、8歳の愛娘を殺されたアルベール(ダミアン・ボナール)の犯人探しに協力する、パリで働く日本人の心療内科医、小夜子です。黒沢監督が以前、今回の柴咲さんの佇まいを「獰猛」という言葉で表現していたのが印象的でした。 黒沢:柴咲さんのことはもちろん映画やテレビで存じ上げていたんですけど、やはりこのまなざしの独特な強さと、もちろん演技力もお持ちでご一緒したいなと思っていて。今回の役にふさわしいと感じてはいたんですが、いざフランス人の大柄な男たちに囲まれた時に、身体というか、アクションというか、佇まいみたいなものがどんな風に見えるのかは未知数でした。周りの男たちをコントロールしているという役柄ながら、最初はやはり見た目としては、華奢で弱々しく、非常に圧迫されたような、阻害されたように見えてしまうのであろうなと思っていたんです。でも撮りながら驚いたことに、実際ダミアンに比べて柴咲さんは全然小柄なんですけど、なぜかまったく脆弱に見えない。猛獣使いじゃないですけども、彼女が精神的にコントロールしているだけじゃなくて、むしろ肉体的にも誰より素早く強靭で、すべてを支配しているように見えちゃうところがすごいなと。柴咲さんの役作りもあったんでしょうが、多分それだけではない天性の何か……、ある種の肉体の強靭さのようなものがはからずもこの作品で出せたのが大変な喜びでした。 柴咲:黒沢監督には、私の精神的な部分を見抜かれているなと(笑)。たとえば魂が存在するとして、この私の肉体という器に入っているのは、いろいろなことを経験したい好奇心旺盛な魂だと思うんです。でも身体そのものは大きくないし、特にダミアンと並ぶと、彼はすごく背が高くて体格もいいですから。撮影の合間も、ムシャムシャお菓子をずっと食べていて(笑)。その私たちの外見的な対比が面白くなればいいなと考えていたし、力ではもちろん敵うはずもない中でマインドコントロールじゃないけど、誘導しているように見えればいいなと思っていました。