柴咲コウ×黒沢清監督。映画『蛇の道』インタビュー
[*これ以降、ラストについての言及が含まれています。ご注意ください] ──とはいえ小夜子を突き動かしているのはあくまでジェンダーレスな、人間としての倫理や信念だという感じがあって、たとえばありがちな“母性”のようなものには集約されていきません。 黒沢:それは、そうですね。あんまり意識したことはないです。今回、小夜子には心療内科医の一面もありますし、彼女なりの正しさじゃないですけども、うん、誠実さみたいなもの、それももはや本当かどうかよくわからないわけですけど、ある種の誠実さが時折見えていたらいいなと思いながら撮ってはいました。 柴咲:私にとって映画は出会いで、監督、役柄、作品に魅力を感じればお引き受けしたいと思っています。じゃあ今回どこに惹かれたのかというと、自分の中に小夜子と共通するものがある気がしたからで。私は嘘がつけなくて、もう本当にこのままの人間なんです。それを傍から見て「不器用だな」「もうちょっとうまく生きればいいのに」と思う人も、逆に「力強い」と思う人もいるだろうし、見方は人それぞれなんですけど、どこかしら小夜子につながる部分があるなと。小夜子が法を犯した猟奇的な行動をとってしまっていることに変わりはないけれど、それでもその倫理や大義に共感してしまう。もし自分が同じ立場に立ったら、やっぱり「絶対にこのまま生かしてはおかないぞ……!!」と(笑)、そう思うだろうなというのは少しありました。
──これまでもいろいろな俳優の方が黒沢監督と初めてご一緒した時の驚きを話しています。たとえば、具体的な動きの演出がまずある。それに対して意図を聞いても、「特に意味はない」という回答だったりする。でも、その動きにより結果的にキャラクターが浮き上がる。演技が異次元に入るようなことが起きる、と表現している方もいました。柴咲さんはいかがでしたか? 柴咲:いろいろな監督さん、いろいろな俳優さんがいて、その掛け合わせにさらに他の技術の方たち、美術の方たちが相まって、一つの映画が奇跡的に出来上がると思うんです。そこで俳優として何か言うなら、事前に情報が欲しくなるのは性(さが)であるかなと。その方が現場で臨機応変に対応できるかもしれないし、情報が少ないとやっぱりちょっと不安になる。でも、この映画の撮影を終えて、そして出来上がった作品を観て気づかされたのが、語るからって伝わるわけではないということ。その言葉にできない奥行きを、俳優はきっと瞬間瞬間に広げて表現していかなきゃいけないんだよなと、身に染みて感じました。すごく勉強になったなと思います。 ●『蛇の道』 8歳の愛娘を何者かに殺害されたアルベール・バシュレ(ダミアン・ボナール)は、偶然出会ったパリで働く日本人の心療内科医、新島小夜子(柴咲コウ)の協力を得ながら、犯人探しに没頭。復讐心を募らせていく。だが、事件に絡む元財団の関係者たちを拉致監禁し、彼らの口から重要な情報を手に入れたアルベールの前に、やがて思いもよらぬ恐ろしい真実が立ち上がってきて……。 監督・脚本_黒沢 清 出演_柴咲コウ、ダミアン・ボナール、マチュー・アマルリック、グレゴワール・コラン、西島秀俊、ヴィマラ・ポンス、スリマヌ・ダジ、青木崇高 原案_『蛇の道』(1998年大映作品) 製作国_フランス/日本/ベルギー/ルクセンブルク 配給_KADOKAWA 新宿ピカデリーほか全国公開中 © 2024 CINÉFRANCE STUDIOS – KADOKAWA CORPORATION – TARANTULA ●柴咲コウ NHK大河ドラマ『おんな城主 直虎』(17)で主演を務め、近作では『沈黙のパレード』『月の満ち欠け』『Dr.コトー診療所』(22)、『君たちはどう生きるか』『ミステリと言う勿れ』(23)など多くの映画作品に出演。また、音楽活動では全国ツアー「柴咲コウ CONCERT TOUR 2023 ACTOR'S THE BEST」を開催するなど、俳優、アーティストとして幅広く活躍を続ける。 ●黒沢清 『CURE』(97)で国際的に注目を集め、第54回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門に出品された『回路』(00)で国際映画批評家連盟賞を受賞。その後も『叫』(06)、『トウキョウソナタ』(08)、『クリーピー 偽りの隣人』(16)など、国内外から高い評価を受け続ける。『岸辺の旅』(14)では第68回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門・監督賞を受賞、『スパイの妻 劇場版』(20)では第77回ヴェネツィア国際映画祭・銀獅子賞を受賞。2024年は本作のほか、4月より『Chime』が配信プラットフォームRoadsteadにて配信中。また9月には『Cloud クラウド』が劇場公開される。 [衣裳クレジット_柴咲コウ] トップス¥42,900、スカート¥53,900(RUMCHE|BRAND NEWS tel_03-6421-0870)/ピアス¥231,000(片耳の金額)、リング(左手)¥231,000、リング(右手小指)¥242,000、リング(右手中指・上)¥231,000、リング(右手中指・真ん中)¥154,000、リング(右手中指・下)¥165,000(oeau|Harumi Showroom tel_03-6433-5395) Photo_Eriko Nemoto Styling_Kei Shibata (tsujimanagement / Shibasaki) Hair & Make-up_Mayumi Watanabe(GON. / Shibasaki) Text&Edit_Milli Kawaguchi
GINZA