他人事じゃないAIによる「雇用崩壊」、インドで生じている「笑えない懸念」とは
生成AIの進化が目覚ましい昨今、人間の雇用が奪われるのではないかという懸念がたびたび取り沙汰されている。人間の仕事がAIに代替される割合が、日本はアジア諸国に比べ高いという試算も出ており、この問題は私たちにとってもはや絵空事とは言えない。一方、世界でこの問題にいち早く直面しているのがインドだ。なぜ同国ではAIによる雇用代替が懸念されているのか。そして、政府はその状況にどんな対策を講じているのかなどについて解説する。 【詳細な図や写真】コールセンターの業務はAIに代替される懸念がある(Photo/Shutterstock.com)
インドが直面し得る「雇用崩壊」
1ページ目を1分でまとめた動画 日々進化を続けるAIが雇用にどのような影響を及ぼすのかは、世界的な関心事になっている。 日本においてもこの問題は他人事ではなく、ASEANに日中韓を加えたアジア14カ国の中で、AIに雇用を奪われる割合が最も高いのは日本であるとした試算が今年に入りAMRO(ASEAN+3マクロ経済調査事務局)から公表されるなど、将来的な雇用への影響が懸念されている。 そうした中で注目されているのが、インドのアウトソーシング産業の行方だ。同産業は、インドにおける経済規模が大きいことに加え、生成AIの影響を受けやすい業態であるためである。 CNBCが今年5月に報じたところでは、スウェーデンのフィンテック企業Klarnaが、AIチャットボットによって700人分のカスタマーサービス業務を代替し、4,000万ドルのコスト削減を実現したと明らかにしたことで、フランスのアウトソーシング大手Teleperformanceの株価が大きく下落したという。このTeleperformanceは世界中に50万人の社員を抱えているが、そのうちインドにおける従業員は9万人を占め、最大規模となっている。 Teleperformanceの株価下落は、コールセンター業務がAIに取って代わられるのではないかという投資家の懸念を反映するものだ。ここから世界的なコールセンターアウトソーシングハブとなっているインドの経済や雇用に大きな影響が出るのではないか、と懸念する声が増えているのである。 ITサービスやコンサルティングサービスを手掛けるタタ・コンサルタンシー・サービシズ(TCS)のクリティバサンCEOは、英フィナンシャル・タイムズの取材で「1年後には、顧客が電話で苦情を伝える前にAIが問題を解決するため、ほとんどのコールセンター業務がなくなるだろう」と指摘。世界銀行や国際通貨基金(IMF)、オックスフォード大学の研究者らも、インドにおけるAIスキルの需要が、AI以外の分野の労働需要を損なっていることを明らかにしている。AI関連の雇用が1つ生まれると、ほかの分野の雇用が複数減少するというわけだ。