「“女性だから”の一言でかき消さないでほしい」市井紗耶香が子育て中の選挙活動で感じたつらさ
モーニング娘。第2期メンバーとしてデビューし、卒業後、4児の母となった市井紗耶香さん。2019年には参院選に出馬したが、「子育てしながらの選挙活動は大変だった」と振り返る。今回の参院選には出馬しないと決めた市井さんに、政治の世界を離れた今思うことを聞いた。(聞き手:荻上チキ/TBSラジオ/Yahoo!ニュース Voice)
育児しながら挑んだ参院選出馬で見えた限界
――市井さんは2019年に参院選に出馬され、話題となりました。出馬しようと思ったきっかけを教えてください。 市井紗耶香: 子どもを産んでから行政関連の講演会などの仕事をすることが多々ありまして、その活動の姿を見ていた立憲民主党から声をかけていただいたんです。はじめは「いやいや、まさかまさか」って思っていましたし、家族にも「これまでの芸能人生を棒に振ってまで、政治活動をするのはどうなのか」と言われました。 しかし、これから先子どもたちが大きくなったときに、「大人たち、よくこんな社会を残してくれたな」みたいになるのも、すごくさびしいと感じていました。また、子育てをしている中で痛ましい事件や悲しいニュースを目にすると、他人事では思えなくなってしまった。産後うつも経験して、育児中のサポートをしてくれたのが行政、行政とつながっているのは政治だと気づかされていたんです。私が子育てをしていく上で感じた生きづらさを政策へ反映できるのならば、子育てをされている方たちに少しでも共感してもらえる部分があるのではと思い、家族を説得して2019年出馬を決意しました。 ただ、私は14歳からアイドル活動をしていたので高校を卒業していませんし、政治家の家庭に生まれたわけでもありません。芸能人が政治について口に出すこと自体避けた方がいいとされる社会でしたし、元アイドルが参院選に出馬するというギャップで、どういう関心を持ってもらえるのか、正直怖いところでしたね。 ――出馬表明されたときの、周りの反応はいかがでしたか? 市井紗耶香: 記者会見をしたときは、本当にいろんな意見をいただきました。大半は「税金の無駄遣い」という批判でしたね。「政治についてきちんと勉強した人が政治家になるべき」「何ができるんだ」ということもたくさん言われました。 一方で励みになったのは、子育てをされている同世代が「何か変えてもらえるんじゃないか」と期待してくれたことです。心が温かくなりましたし、その思いを胸に選挙活動させていただきました。 ――選挙活動をやってみて良かったことはどんなことですか。 市井紗耶香: こうしてラジオで政治の話をできるのが、私にとっては一つの進歩だと思います。「この先の未来はどうなっていくんだろうね」「こうしていったら楽しいんじゃないかな」という思いを共有できるようになったことが大きな喜びです。 ――逆に、つらかったことはどんなことでしょうか。 市井紗耶香: 大変だったのは、やはり子育てをしながらの選挙活動ですね。党のスタッフから「いまから街頭演説に立てますが、どうですか?」と提案の電話をもらうこともありましたが、その時間には子どものために自宅へ戻らねばならず街頭に立てないということもありました。他の候補者の方々に比べれば、家にいる時間が多くて、ゆとりあるスケジュールと感じられたかもしれませんが、もう1回このスケジュールで選挙活動をと言われても、現実的ではないなと思います。 落選が決まったときは「落選して当然」「もっと勉強してから」「地方の議員から出馬し直して」といったネガティブな反応が多かったです。心無い言葉もあり、つらい部分の方が多かったですね。 ――女性候補者は家族のことを聞かれることが多いように思いますが、いかがでしょうか。 市井紗耶香: 夫や子どもが応援演説するのが当たり前で、家族が参加するのが政治だというのは、現代社会において少し違和感を覚えます。自分の決断を受け入れてくれた夫には感謝していますが、家族といっても個人の人生があります。表に出て応援したい人もいれば、応援したいけれど出たくない人もいると思います。 投票する側からすれば、別にそれはあまり関係ないのではないかなと思います。それよりも、命の大切さや社会で起きていることをどうしていきたいかをちゃんと話せる場であってほしいなと思いますね。