コロナ禍で人生をあきらめていたライターが、なぜ政治家・小川淳也に会いに行き、何を聞いたのか?
■対話から浮かんだ大きなテーマ『民主主義って何だ?』 安田:一連の対話から浮かんできたのは「民主主義って、そもそも何なんだろう」っていうことですね。これはすごく大きな問題で、誰も明確に「民主主義とは」を示すことができない。それでも考え続けなくちゃならない、大切なことであるには違いない。 和田:小川さんと対話したことで何かが変わったわけではないんだけど、私の苦しみは社会構造が原因で私が悪いんじゃないとわかったら、不安がちょっと減ってきた気がしたんです。そのことを小川さんに伝えたら「国の問題を政治家と一緒に考え、悩み、理解する。それをする人が一人でも増えれば、できることはもっともっと増えていくはずだ」って。この言葉を電車の中で思い返していて、ふと「この対話は民主主義なんじゃないのかな?」と思った。最もシンプルで根源的で、難しいテーマですが、それこそがこの本の裏テーマになっていったんです。 安田:民主主義って、美しい文脈で使われることが多いんだけど、いざそれを実現しようとすると、めちゃくちゃ手間もコストもかかるんですよ。だからって逃げちゃいけないし、愚直に、そこを目指していくことが大事。政治家だけが民主主義を実現させてくれるわけでもない。僕ら市民も、その覚悟を持たなくちゃいけないんだってことを、この本で再認識しましたね。 和田:そんな風に読み取っていただけてうれしいです。民主主義って日本ではもしかしなくても、苦手な人が多いですよね。「水戸黄門」や「暴れん坊将軍」みたいな人がいて、なんとかしてくれると思い込んで選挙にも足が遠いのかも。いないから! やるのは私たち市民!と本を書きながら自覚しました。 安田:小川さんの言葉で「人間の尊重」っていうのが出てきますよね。生きる権利、当たり前に生活できる権利。いい言葉だと思う。人々の中には「もう死にたい」と考えるほど苦しんでる人もいるけれど、そういう人の「生きる権利」をどれだけ尊重できるか。これが民主主義の最も大事な役割であるはず。と同時に、その役割を果たすには、お金も労力も知恵も、多大なコストを伴う。そういうことを、長い時間をかけてでも、やらなくちゃいけないよねっていう訴えが、行間からあふれている。 和田:今まさに考えなきゃいけないことですよね。この本が、そのきっかけになれたらすごくうれしいです! (構成:黒川エダ) 和田靜香(わだ・しずか) 1965年生まれ。静岡県沼津市出身。ライター。20歳で音楽評論家・作詞家の湯川れい子さんのアシスタントに。その後フリーのライターとして音楽や相撲などエンタメを中心に執筆を続けるが仕事が徐々に減りアルバイト生活を送り始める。コロナ禍に生活がさらに苦しくなり、一念発起して小川淳也議員事務所に面談取材を申し入れる。その問答が2021年、単行本で刊行(本書同タイトル、左右社)。以降、政治を語るライターとしても活動中。 安田浩一(やすだ・こういち) 1964年生まれ。「週刊宝石」「サンデー毎日」記者を経て2001年からフリーに。事件、労働問題などを中心に取材・執筆活動を続ける。12年『ネットと愛国 在特会の「闇」を追いかけて』で第34回講談社ノンフィクション賞受賞。15年「ルポ 外国人 『隷属』労働者」(「G2」vol.17掲載)で第46回大宅壮一ノンフィクション賞(雑誌部門)を受賞。著書に『ルポ 差別と貧困の外国人労働者』『ヘイトスピーチ「愛国者」たちの憎悪と暴力』『「右翼」の戦後史』『団地と移民 課題最先端「空間」の闘い』『地震と虐殺 1923-2024 』などがある。
和田靜香