「マウス研究」から見えてきた「肥満」と「次の世代の自閉スペクトラム症」の関係性…そのあまりにも意外すぎる「突破口」
自閉スペクトラム症の原因は腸内細菌の欠如…?
そこで、肥満の母親マウスから生まれた自閉スペクトラム様症状を示す赤ちゃんマウスの腸に、正常なマウスの腸内マイクロバイオータを移植する実験が行われました。その結果、自閉スペクトラム様の症状が抑えられたのです。一方、無菌状態で育てられた肥満ではない母親から生まれた無菌状態の赤ちゃんマウス(全身にマイクロバイオータがいない状態)では、自閉スペクトラム様症状が見られ、この無菌赤ちゃんマウスの腸に正常なマウスの腸内マイクロバイオータを移植することで正常化できました。 これらの結果から、腸内マイクロバイオータに含まれる特定の細菌が欠如することで、自閉スペクトラム様症状が起こるのではないかと考えられました。 自閉スペクトラム様症状の改善に効果があるのではないかといわれているプロバイオティクス(ヒトの健康によい影響を与える微生物)がいくつかあります。その中でも、乳酸菌の一種であるロイテリ菌が、腸内マイクロバイオータから欠如もしくは減少していることが、自閉スペクトラム様症状を引き起こすのではないかとの仮定のもと、肥満の母親マウスから生まれた赤ちゃんマウスの腸内マイクロバイオータの解析が行われました。 その結果、仮説の通り、腸内のロイテリ菌の数が有意に減少していたのです。そこで、マウスの飲み水にロイテリ菌を添加し、継続的にマウスに飲ませると、驚くことに自閉スペクトラム症状が緩和したのです(※参考文献6-4)。現在、ヒトでもロイテリ菌の効果を検証する研究が進められています。
オキシトシンの分泌を促す腸内細菌
この話には続きがあります。ニューロンのシナプス内に存在して、シナプス間の情報伝達の機能をサポートする役目をするShank3Bというタンパク質があります。このタンパク質を作り出すための遺伝子(Shank3B遺伝子)が欠損することで、自閉スペクトラム様症状を示すことが知られていて、自閉スペクトラム症モデルマウスとして広く用いられています。このShank3B遺伝子を欠損させたマウスの腸内マイクロバイオータを解析したところ、やはりロイテリ菌の数が減少していました。 そこで、飲み水にロイテリ菌を添加し、Shank3B遺伝子欠損マウスに継続的に飲ませると、自閉スペクトラム様症状を改善できました。この効果は、腸内のロイテリ菌が、腸に張り巡らされている求心性迷走神経を興奮させ、視床下部からのペプチドホルモンであるオキシトシンの分泌を促すことによって起こることがわかったのです。Shank3B遺伝子欠損マウスの求心性迷走神経を事前に切断しておいた状態でロイテリ菌を添加した水を飲ませても、自閉スペクトラム様症状の改善は見られなかったことから確認されました。 さらに驚くべきことに、Shank3B遺伝子欠損マウス以外の他の3種類の自閉スペクトラム症のモデルマウスでも、ロイテリ菌を添加した水を継続的に飲ませることで、自閉スペクトラム様症状が抑えられたのです(※参考文献6-5)。