殺人犯・クラシコフの釈放に固執したプーチン政権の損得勘定
情報機関が唯一のパイプ
とはいえ、米露関係が最悪の中で情報機関同士の交渉が機能したことは一定の意味がある。 「ニューヨーク・タイムズ」によれば、交渉は1年以上にわたり、曲折や難航を経て、7月初めにウィリアム・バーンズCIA長官とアレクサンドル・ボルトニコフFSB長官が電話協議してまとまり、その後、CIAとFSBの高官がトルコで最終的に細部を詰めたという。この間、国務省と外務省の外交ルートは機能しなかった。 クレムリンの内部事情に詳しいとされるロシアの独立系メディア、「SVR将軍」は8月2日、秘密交渉は長期化し、再三修正され、決裂の可能性もあったとしながら、今後も交換釈放が継続されると伝えた。 米露間で唯一有効となった情報機関の交渉が、ウクライナの停戦交渉に生かされる可能性もないとはいえない。
拓殖大学海外事情研究所客員教授 名越健郎