発達障害児を苦しめる「心の教育」 寛容な社会ほど権利意識は強い
2018年に刊行した初の著書『学校の「当たり前」をやめた。』(時事通信社)が一躍ベストセラーとなった工藤勇一氏。当時、校長を務めていた東京都の千代田区立麹町中学校で「宿題廃止」「定期テスト廃止」などの改革を推進し、注目を集めた。20年に同校を60歳で定年退職した後、私立の横浜創英中学・高等学校の校長を4年間務めた(24年3月末日で退任、取材は在任中の同年3月)。横浜創英では「凸凹(でこぼこ)がある子が、凸凹があるままで卒業できる学校をつくろう」としたという。そんな工藤氏を、近著『発達障害大全』(日経BP)が話題の黒坂真由子がインタビューした。 【関連画像】今回のインタビューのきっかけとなった『発達障害大全』(日経BP) 昨年末に『発達障害大全』を工藤先生に献本して、すぐにご連絡をいただきました。横浜創英中学・高等学校で進めていたカリキュラム改革について教えていただき、「このようなカリキュラムであれば、発達障害の子たちが、定型発達(*)の子たちと同じ教室で学んでいける」と思いました。 工藤勇一氏(以下、工藤):横浜創英では、一人ひとりの生徒が、自分の意思によって時間割も学び方も決めていく、オーダーメード型のカリキュラム改革を進めました。僕はこの3月で退任ですが、後任の校長は、最も信頼する副校長として一緒に改革を進めてきた本間朋弘氏で、校長補佐としてカリキュラムづくりを担った山本崇雄も副校長として残ります。改革の方向性は変わらず、僕も後方から支援を続けます。 公立の千代田区立麹町中学でも、「宿題廃止」「定期テスト廃止」など、大胆な施策を進められました。様々な改革の根幹には、どのような考えがあるのでしょうか。 工藤:日本の教育の大きな問題点の一つとして、「心の教育」があります。 「心の教育」が問題、ですか。むしろ「よいこと」のように感じてしまいますが……。 * 定型発達:発達障害ではない多数派の人々の発達を指す言葉。 ●心に働きかけて、行動は変わるのか? 工藤:「心を一つに」「心を大事に」「心を合わせて」などと、よく言いますよね。昭和の教育を受けてきた私たちには非常になじみがあるものですし、今の学校でも当然のように称揚されています。 心というのは、よいことを行うための手段であり、「心を鍛えれば、よい行いができる」と考えられています。「心=行動」であると。このような考えのもと、学校でも心を鍛える指導が行われているわけです。それは一見、とても美しいことのように見えるのですが、本当にそうなのかと一度疑ってみる必要があります。 どういうことでしょうか。 工藤:心を鍛える努力が、「よい行い」につながるでしょうか。