人口減退期は“終着駅”ではない…今回の減少で日本はどんな新文明に移るのか
人口減少時代に入った日本――。歴史人口学が専門の静岡県立大学長の鬼頭宏氏が、「過去の日本の人口減少はどのように起きたか」、「なぜ少子化に向かったのか」、「都市から地方へ、人口移動は起こるのか」、「江戸時代の人口減退期からわかったこと」などを中心に、これまで4回執筆してきました。締めくくりとなる第5回は、「21世紀:文明システムのパラダイムシフト」をテーマに、私たちは日本の今世紀の人口減少期をどのようにとらえ、これからどのように向かっていくべきか、そしてどのような未来を描いていくのか、考えます。 ----------
再び話は元に戻る。この連載第1回の結びで、先進国を中心に人口が減少する21世紀は、産業文明の成熟期であり、新たな文明への転換を準備する時代である、と述べた。それはどのような意味なのだろうか。
少子化の背景:1970年代を顧みる
日本で合計特殊出生率が、継続的に人口を維持できる水準(人口置換水準、現在の日本では2.07)を下回るようになったのは1974年のことであった。少子化の原因として、都市化、女性の高学歴化、女性の社会的進出、機会費用の増大、男性の育児・家事への参加率の低さ、非正規労働者の増加、子ども手当の不足、保育園の不足などが指摘される。その背景には、東アジアに共通する家族制度の特徴、ワーク・ライフバランスの悪さがあると考えられる。確かにその通りなのだが、果たしてそれだけなのだろうか。 近代化、工業化に伴う出生率の低下は、国や地域に固有の特徴があるにしても、世界各国で共通して起きている。国連は、現在73億人の世界人口が2100年には112億人まで増加するとしているが、出生率低下は世界に拡大し、増加率は年々低下してゼロ成長に近づくと予測している。21世紀の世界は歴史的な人口停滞に向かう局面にあるのだ。出生率が人口増加にブレーキをかけるように低下したのは、むやみに人口を増やさない方がいいという意識的、あるいは無意識的な行動の結果なのではないのか。時代の状況を反映した、自然の摂理として見るべきなのだ。 日本を含む先進国の合計特殊出生率が2を割り込んだのは1975年前後に集中していた。つまり世界の出生率は70年代にひとつの転機を迎えたことに注目したい。では何があったのか。