「X」利用者が続々と「ブルースカイ」へ移動 仕組み? オーナーは?
トム・ガーケン BBCテクノロジー担当記者 ソーシャルメディアでこのところ、「ブルースカイ(Bluesky)」という言葉を、よく見かけるかもしれない。何のことだろうと思った人もいるだろう。 これはソーシャルメディア・プラットフォームのことだ。イーロン・マスク氏が所有する「X」の代わりとなるサービスを提供している。ロゴやアイコンは、「X」の前身「ツイッター」のそれによく似ている。 ブルースカイはこのところ急成長しており、1日に100万以上のアカウントが新しく作られている。 私がこの原稿を書いている時点で、利用者は1670万人だったが、読者がこの記事を読んでくれている現時点ではその数字はすでに古くなっているだろう。 では、ブルースカイとは何なのか。そして、どうしてそれほど大勢が使い始めているのか。 ■ブルースカイとは ブルースカイは自分たちのことを「ソーシャルメディアのあるべき形」だと自認している。ただし、外見は他のソーシャルメディアによく似ている。 外見的にはページの左手に、予想した通りのものがずらりと並んでいる。検索、通知、ホーム、などなどだ。 利用者は、自分の思ったことを投稿したり、人の投稿にコメントしたり、再投稿(リポスト)したり、気に入った投稿を「お気に入り」にしたりできる。 要するに簡単に言えば、かつての「X」(旧ツイッター)によく似ているのだ。 それでは何が「X」と違うのかというと、「分散型」という特徴がある。「分散型」とは複雑な意味の用語だが、基本的には、プラットフォームの所有会社が持つデータサーバー以外に、利用者が自分のデータを自分でホスト(データ保管・処理)できるという意味になる。 つまり、ブルースカイ(bsky)のデータ・サーバーを使うアカウント名は「@〇〇.bsky.social」などになるのに対して、会社独自や自分独自のサーバーを使えば、その名前がアカウント名の一部になる。 ただし実際には、ほとんどの利用者はブルースカイのサーバーにアカウントを登録している。そのため、新しく作ったアカウントのほとんどは、「@利用者名.bsky.social」という名前になっている。 ■オーナーは? ブルースカイはずいぶんと「X」に似ているな――と思った人は、理由を聞けば、なるほどと納得するはずだ。そもそもブルースカイを作ったのは、ツイッター創設者のジャック・ドーシー氏だったのだ。 ドーシー氏はかつてブルースカイについて、一人の個人や一つの法人などが単体で所有するのではない、ツイッターの分散型バージョンにしたいのだと述べていた。 ただし、ドーシー氏はもはやブルースカイの運営チームにかかわっていない。2024年5月に理事会を離れ、9月にはアカウントを削除している。 今では、最高経営責任者のジェイ・グレイバー氏がアメリカの公益法人(パブリック・ベネフィット・コーポレーション=PBC)の中心となって所有し、運営している。 ■人気上昇の理由は ブルースカイは2019年に運営を開始したが、今年2月までは招待制だった。 利用者の人数をそうやって抑えることで、開発者たちは舞台裏で、さまざまな細かい技術的な問題に対処し、世間一般に公開する前に機能を安定させようとした。 その計画は、ある程度はうまくいった。ただし今年11月になって新規利用者があまりに一気に急増したため、このところは時折、使えなくなる現象が出ている。 11月上旬のアメリカ大統領選で共和党のドナルド・トランプ候補が当選したのを受けて、ブルースカイ利用者が急増したのは、偶然の一致ではない。 「X」オーナーのマスク氏は選挙戦でトランプ氏を精力的に応援していたし、今後はトランプ次期政権に大々的にかかわる見通しだ。 このことから否応なく、ソーシャルメディア・プラットフォームの間に政治的な分断が生まれた。一部の人は抗議行動として「X」を離れた。 他方、それ以外の理由で「X」を離れた人たちもいる。たとえば英紙ガーディアンは13日、「X」が極右陰謀論や人種差別を拡散する「有毒なプラットフォーム」になり、そこにとどまる利点よりマイナスが上回ったためとして、「X」への投稿をやめると宣言した。 こうした中、世界各地でかなりの人数がブルースカイのアプリをダウンロードしている。イギリスでは14日、アップルのアプリ市場「AppStore(アップストア)」で、最もダウンロードされた無料アプリになった。 人気歌手のリゾ氏や、イギリスの人気テレビ司会者グレッグ・デイヴィス氏など、ブルースカイを使い始める著名人も増えている。「X」の利用を減らす、あるいは完全にやめると宣言する著名人も何人かいる。 ほかにも、米俳優のベン・スティラー氏、ジェイミー・リー・カーティス氏、パットン・オズウォルト氏といった人たちも、ブルースカイを使い始めた。 ただし、こうした成長ぶりは目覚ましいものだが、ブルースカイが本当の意味で「X」の挑戦者となるには、現在の成長がかなり長期間、続く必要がある。 「X」は総利用者数を公表していないものの、数億人単位だと考えられている。マスク氏はかつて、1日の利用者は2億5000万人だと話していた。 ■ブルースカイはどうやって利益を これこそが大事なポイントだ。 ブルースカイは立ち上げ当初、投資家やベンチャーキャピタルからの出資を得て開始した。その後も、こうした投資家を通じて数千万ドルを集めている。 しかし、新しい利用者がこれだけ増えている今となっては、経費を払うための新しい方法を見つける必要がある。 ツイッターがさかんだった当時は、収益のほとんどを広告収入に頼っていた。 ブルースカイは、この道は避けたいとしている。広告に頼る代わりに、利用者にどのような有料サービスを提供するか検討を続ける方針で、これにはたとえば、ユーザー名を独自のドメイン名にするなどのオプションが考えられるという。 これはややこしそうな話だが、要するに利用者のユーザー名がさらにその人独自のものになるという意味だ。 たとえば、私のアカウント名は今、「@twgerken.bsky.social 」だが、これが将来的にはたとえば「@twgerken.bbc.co.uk」など、もっと公式らしく見えるものに変更できるかもしれないという話だ。 このアイディアを支持する人たちは、これは本人認証にもつながる得策だと話す。なぜならこれには、利用者がアカウント名に使うドメイン(たとえばbbc.co.uk)を持つ組織(この場合はBBC)が、利用を承認する必要があるからだ。 ブルースカイの所有者たちが今後も広告掲載を避けようとするならば、運営を続けるために、ほかにも課金制の機能など、多様な選択肢を検討せざるを得なくなるかもしれない。 ただし、利益をそれほど出していないとしても、それはITスタートアップとしては特に珍しくもないことだ。 ツイッターも実際、2022年にマスク氏が買収するまで、株式を公開していた8年間で黒字になったのは2年しかない。 そしてその結果、最終的にどうなったのかは周知のことだ。ツイッターを自分のものにするという特権のために、世界一の大富豪が440億ドルで同社を買収した。 ブルースカイが今後どうなるのかは、今のところ不明だ。しかし、その成長が続くなら、あらゆる展開が可能だ。 (英語記事 X users jump to Bluesky - but what is it and who owns it? )
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