怪物肉食ヒグマ「OSO18」を生んだのはヒトの“ある犯罪行為”だった…? 最強ハンターらの執念の追跡を描く(レビュー)
今年は毎日のようにクマ出没のニュースが届く。北海道のヒグマは最大で五百キロにもなる怪物だ。熊害は吉村昭が『羆嵐』で小説化した北海道三毛別の件が最も有名だろう。 本来は臆病で、山菜や木の実を食べ、サケやエゾシカなどを獲ることはあっても、人里に出てくることはほとんどない……はずだった。 二〇一九年夏、北海道東部の標茶町オソツベツで放牧中の乳牛一頭がヒグマに襲われた。その年だけでも二十八頭もの牛が殺傷されていたのだ。足跡から「体重二〇〇~二三〇㎏ほどのオス」とわかったが誘因餌を使った捕獲檻にも入らず、姿も見せない。 ここから二三年夏まで、牛を襲い続ける「OSO18」と名付けられたヒグマとの知恵比べが始まる。
「南知床・ヒグマ情報センター」理事長の著者は長年「根釧地区における野生動物の調査研究及び自治体からの管理委託による野生動物管理」を行ってきた。だがハンターではない。現役最強と言われるヒグマハンター、赤石正男と斎藤泰和に同行する運転手兼参謀役である。 被害地域が年々拡大したため、行政から協力を依頼され、著者は十一人のハンターを選抜し追跡を開始した。 なぜOSO18は牛を襲うのか。なぜ姿を見せずに襲えるのか。 報道は過熱し、怪物クマを仕留めるため道外のハンターや、映像を押さえようとNHK取材班も加わった。 だが終わりはあっけなく来た。意外な場所で新人ハンターに仕留められたOSO18は、すでに解体され、肉として売られてしまったのだ。 しかしドキュメンタリー番組のディレクターが、廃棄した骨を堆肥から苦労の末に探しだし、科学分析にかけることができた。 OSO18が牛を襲ったのはエゾシカ猟の不法投棄で肉の味を知ったからではないかという結論に辿り着く。怪物クマを生み出したのは人間だった。肉食化するヒグマを増やしているかもしれないのだ。 [レビュアー]東えりか(書評家・HONZ副代表) 千葉県生まれ。書評家。「小説すばる」「週刊新潮」「ミステリマガジン」「読売新聞」ほか各メディアで書評を担当。また、小説以外の優れた書籍を紹介するウェブサイト「HONZ」の副代表を務めている。 協力:新潮社 新潮社 週刊新潮 Book Bang編集部 新潮社
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