「空想旅行案内人 ジャン=ミッシェル・フォロン」(東京ステーションギャラリー)レポート。フォロンが案内する空想旅行を通じて、おもいおもいのストーリーを体験する展覧会
フォロンが現代のわたしたちに問いかけること
フォロンが導く空想旅行は「つぎはどこにいこう?」という問いかけとともに幕を閉じる。最後の章で展示されるのは、フォロンが家族や友人たちに送ったメールアートや、彼が晩年に手がけた水彩画群だ。 フォロンは旅先での出会いや新しい体験を大切な創作のエネルギーにしていたという。そんな彼が親しい友人や家族にあてた手紙に描いたのは、自身の目と豊かな想像をとおして表現される世界の様子だ。このような交流の痕跡からは、コロナ禍でSNS上にたくさんアップされていた空や身の回りの風景写真のことなども思い出される。展示されている手紙やスケッチブックのなかには、日本の富士山や印鑑をモチーフにした作品もあり、フォロンと日本の交流の様子も感じられた。 また、このセクションでたびたび登場する「水平線」や「鳥」「船」は自由を象徴するモチーフであり、彼が旅のなかでじっさいに出会った風景でもある。ここまで、フォロンが案内してくれた空想旅行の幕引きは、わたしたちがつむぐ小さなストーリーの行く先についてふたたび考えをうながすものであり、その行く先をやさしく照らしてくれるような暖かい・希望に満ちた雰囲気に満ちていた。 フォロンが投げかける違和感や問いに想像力を働かせることで、おもいおもいのストーリーが浮かび上がってくる本展。同じ展覧会を見に行った人におもわず感想を聞いてみたくなるような、そんな他者との会話のきっかけを作ってくれるような展覧会であるとも言えるかもしれない。
Haruka Ijima