アンディ・フグ最後の対戦者ノブ・ハヤシ、白血病克服し、戦い続ける理由
白血病との診断に、「治ればまた戦える」
25歳になって、帰国。日本にドージョーチャクリキ・ジャパンを作り、自らも選手として現役を続けた。そんなとき、奇しくも白血病に羅患していることが判明する。 「最初は風邪かなと思っていたんですが、練習してても体力がもたなくなってきたんですよ。家に帰る坂道が途中で上れなくなってしまって」 普通の風邪ではない、と不安がよぎり病院へ行った。血液内科に回され、検査を受けたところ、急性骨髄性白血病であることがわかった。 「エイズとC型、B型肝炎は試合ができないんです。血が出るんでうつしちゃう可能性があるので。でも、白血病は治れば試合ができる。だから白血病といわれても『あぁ、そうなんすか』みたいな感じだったんです。治ればまた戦えるっていうことのほうが大きかったんですね」
2014年末に本戦に復帰 真に戦う姿を通して、伝えたいこと
そこから前述の6年間におよんだ闘病生活が始まったわけだが、紆余曲折を経て2014年12月29日、大田区総合体育館にて開催された「BLADE 1」にて、チャクリキの先輩であるピーター・アーツの弟子、ムラット・エガンを相手に本戦復帰を果たした。TKO負けを喫するも白血病を克服してのリング復帰は、多くの人を勇気づけた。 「またリングに上がれたってことが一番。それで僕の中では全部OKって感じです」 姉の骨髄を移植、免疫抑制剤を服用しながら現役を続けているが、今後も強い選手と戦い続けていきたいと、言葉に力がこもる。 「適当に、自分より弱い選手を選んで試合をしたくないんです。それで勝っても、ウソなので。復帰して、身体も動きも完璧に戻っているわけではないし、自分でも納得はいっていません。だからこそ、ちゃんと勝負できる相手じゃないと。そして、僕が携わる興行は、微々たるものでも寄付や募金をしていけるように、骨髄バンクチャリティーとして今後もやっていきたい」 真に戦う姿を通して、伝えたいことがある。 「白血病になって感じたのは、自分自身よりもまわりのほうが心配しているということ。その中で、自分が落ちても仕方ない。自分が落ちたら、まわりの人はもっと落ちる。自分が前向きに考えていないと本当にみんなに迷惑をかけると思います。僕自身はアホなんで、白血病に関しては一切調べなかったんですよ。自分自身に恐怖心を植え付けてしまうのが嫌だったので。まずは治すってことを一から考えていかないと、って。自分が落ちるんじゃなくて、まわりのことを思って、自分は前向きに考えるのが一番です。命あってナンボ、苦境にある人には、あまり落ち込まないように前向きに考えてもらえたらと思います」
復帰前、一般ニュースにノブ・ハヤシの名が
復帰を果たす1年ほど前、ノブ・ハヤシの名が格闘技ではなく一般のニュースで大きく報じられたことがあった。2013年12月28日未明、東京・品川区の蒲田駅で終電を待っていたノブは、足元をフラフラさせた男性が線路上に転落するのを目撃し、すぐさま線路に飛び降りて救助を果たしたのだ。マスコミの取材に対し「完全に無意識でした。困っている人を助けるというのは特別なことではないです」とコメントを残している。 格闘技を始めた当初は対戦相手にだけ向けていた拳が、やがて自らの苦境打開に向き、いまはその拳に多くの人の希望をのせている。 (取材・文・写真:志和浩司)