社会課題へのトライに「エラー」許されぬ風潮 まずは当事者に聞いてみる 前進のために必要なのは
当事者の声を聞く
金澤:興味を持ってもらうエンタメ性と、人を傷つけない表現のバランスはどう取っているんですか? トム:僕は元々、エンタメではなく社会活動、ジャーナリズムをやりたいという思いからスタートしました。どんな表現が人を傷つけるのかというリテラシーを持った状態で始めているので、最初は感覚的にやっていました。環境問題などは、面白く伝えるための工夫はしやすいと思います。 一方で、当事者の顔がはっきり浮かぶ問題はそうではない。「そもそも、この問題をエンタメ化する必要はありますか」「それで傷ついてしまう人がいるとよくないよね」という視点から、当事者の方の意見を聞くようになりました。「この問題を取り扱いたいんですが、こういう企画についてどう思いますか」と聞いた上でやらないといけないなということを、コンテンツを作りながら学んできました。 金澤:中村さんの原爆ARも、当事者の方からたくさん聞き取りをされたそうですね 中村:私は当初、キノコ雲を渋谷の街に映し出すことで、被爆者の人々が持ってるトラウマを再起させちゃうんじゃないかということを懸念していたんですけれど、実際にヒアリングしてみると、逆でした。 「キノコ雲はもっと大きかった」とか「あの被害はこんなもんじゃ全然伝えられない」とか、「自分たちの経験を伝えたい」という思いのほうが強かった。どこまでその悲惨さを自分たちの手で描いていいのだろうか、みたいな思いもありました。技術的な制約もあり、バランスを取るのも難しかった。 当事者の方の意見を聞くのは、世に出す上では必須のプロセスだなと思いました。 金澤:リテラシーをベースにした上でエンタメに、というトムさんのお話と我々のスタンスには近いものを感じます。自分が軸を持っているからこそできる表現というのは絶対にあるのだろうと勇気づけられました。 伝えなければいけない課題はたくさんありますが、今後やっていきたい届け方、模索していることなどあれば教えて下さい。 トム:今年から番組作りをやろうと思っています。1人の視聴者からどれだけの時間を取れたのか、社会課題に目を向けてもらう時間を作ってもらえるかを目標にしたい。 今は良い意味でも悪い意味でもYouTuber感が強いと思っているんです。そのエンタメ要素は残しつつ、本当に新しいメディアとして社会に認めてもらえるだけのコンテンツの量や規模感を実現していきたいと思っているので、期待してください。 中村:今後もこの問題と向き合い続けて、離れませんよというのが私の責任の示し方だと思っています。 きちんと成果を出していくためにも、自分が持続的にこの問題に関わり続けられる仕組みを作っていかないといけないなと考えています。 来年は被爆80年という節目の年でもあるので、関心が集まるタイミングに合わせてどういったムーブメントを作っていけるかを考えています。