「冤罪のリスクも…」警察が弁護士に“被疑者との接見”で「スマホ使用」を禁止 “他人ごと”ではない「接見交通権・秘密交通権侵害」見逃されがちな問題
本件での「証拠隠滅のおそれ」は“なかった”?
とはいえ、接見交通権は法律上、無制約ではない。刑事施設の長(本件では警察署長)は、被疑者の逃亡、罪証の隠滅等を防ぐため必要な措置を定めることができる(刑事訴訟法39条2項)。また、刑事施設の規律、秩序の維持、その他管理運営上「必要な制限」をすることができる(刑事収容施設法118条)。 特に、スマートフォンは外部との連絡が可能であり、弁護士との接見交通の範囲を超え、証拠隠滅の指示等が行われる危険性が考えられる。本件でも、その趣旨でスマートフォンの使用が制限されたのではないか。 福原弁護士は「被疑事実の内容によって結論が変わるべきではないが」と断ったうえで、「少なくとも、本件では証拠隠滅のリスクはほぼなく、接見制限を行う必要性はなかった」と述べる。 福原弁護士:「本件は交通事故です。客観的な証拠は現場ですべて警察官により押さえられているうえ、共犯者もいません。また、被疑者も被疑事実の概要を認めていました。さらに、被害者と接触することも考えられませんでした。 この状況で、外部と連絡して証拠隠滅を依頼・指示するなど、考えられないことです。 他方で、交通事故の場合は現場の状況を地図で確認する必要性があります。また、本件の被疑者は外国人なので、時々、言葉が分からないことがあり、調べなければなりませんでした。スマートフォンを使えないと、困ることが多いのです」
接見交通権は、いざというときに身を守る不可欠な人権
福原弁護士が強調する「接見交通権」は、日常生活ではあまり馴染みのない言葉だが、われわれ一般市民にとってどのような意義をもつのか。 福原弁護士は、「万が一、自分が突然、逮捕・勾留されたらどうなるか、想像してほしい」と述べ、接見交通権が「人身の自由を守るうえで不可欠な権利」だと説明する。 福原弁護士:「逮捕・勾留は、最も基本的な人権である『人身の自由』(憲法31条参照)が制限された状態です。 いきなり施設に閉じ込められ、取り調べが始まり、よく分からないことを言われ、調書をとられます。 普通の人は、刑事手続きに関する法制度をほとんど知りません。また取調べが違法なものかどうか等も判断できません。『黙秘権』という言葉は知っているかもしれませんが、本当に黙っていたら不利にはたらくのではないか、などと思ってしまいます。大変心細い状況です。 その状況で被疑者・被告人が捜査官と対峙するのに、頼りになるのは弁護人しかいません。 だからこそ、接見交通権は、捜査官の立ち合いなくして弁護人とコミュニケーションをとるための最低限の手段として、憲法・刑事訴訟法で保障されています」 刑事訴訟法1条は「刑事事件につき、公共の福祉の維持と個人の基本的人権の保障とを全うしつつ、事案の真相を明らかにし、刑罰法令を適正且つ迅速に適用実現することを目的とする」と定めている。 福原弁護士:「刑事手続において、被疑者・被告人と捜査機関とが対等な立場でなければ、刑事訴訟法の『目的』を実現することはできません。また、日本国憲法が定める『基本的人権』を守ることや『適正手続』を維持することもできません。 そのような意味でも、被疑者・被告人にとって、刑事手続に詳しい弁護士を弁護人として選任し、必要な助言や援助を得ることは、捜査機関と対等に対峙するために非常に重要です」 最高裁も、特に、身柄拘束された被疑者が初めて弁護士と接見する場合について、可能な限り早期に初回の弁護士との接見交通を認めなければならないと判示し(平成11年(1999年)3月24日判決、平成12年(2000年)6月13日判決参照)、重要視している。