意外に重要な「FF車」のリアサスペンション 進歩の変遷に見るクルマのあり方
後輪グリップが失われやすい欠点
こうして前輪にまつわる諸問題が解決したことにより、FFの時代が始まるのだが、次なる課題はリアサスペンションだった。初期のFFは前述の通り「ただ、タイヤがついていればいい」という考えでリアサスペンションが設計されていた。しかし、パワートレーンの全てがフロントに依存するため、元々前後の重量配分が悪く、後輪のグリップは極めて失われやすいという欠点がFF車には潜んでいたのだ。 元来がパッケージ効率を高めるために採用されたFF方式なので、メカニズムは出来る限り車両前端にまとめたい。それはすなわち、前荷重が限りなく増大する方向である。幾度となく書いているように、タイヤのグリップは垂直荷重に概ね比例する。だからFFはリアタイヤにかかる重量が足りないことによってグリップが足りなくなる要素が揃っている。 この状態でブレーキをかけると、荷重はさらにフロントに寄り、リアタイヤのグリップが失われて前輪を軸にスピンモードに入る「タックイン」という現象が起きる。路面が下り勾配であったりすればなおさらだ。タックインから回復するのはドライバーに高い技量が求められる。クルマの方向安定性が失われてしまっているので、普通のドライバーはコントロール不能になってしまうのだ。 対してフロントは垂直荷重は常に十分に足りているから、グリップが失われるとしたら、タイヤのグリップが遠心力に負けてドリフトアウトする場合だけだと言っていい。これはいわゆるアンダーステア状態で、別の言い方をすれば安定し過ぎて曲がらない状態である。よほどコーナーへのアプローチ速度が間違っていない限り、滑りながら速度が落ちて行けばタイヤのグリップが回復するのでタックインよりずっと危険が少ない。 つまり、FFを安全な乗用車に仕立てるためにはどうやってタックインを抑え込むかに掛っているのである。
初期はトレーリングアーム式が主流
初期のFF車はリアサスペンションの重要性をエンジニアリング的に消化していなかった。そのため「トレーリングアーム式」の簡易なサスペンション形式が多数派を占めた。トレーリングアーム式の図を見てみて欲しい。車両の前後方向に向いたスイングアームの先にタイヤが取り付けられている。 理想を言えばサスペンションアームは長い方が良い。しかし長いとしなりやすく、アームを曲げる方向の剛性を維持するのが難しい。このタイプのサスペンションはコーナリング中に、ある一定までは踏ん張るが、タイヤのグリップが限界に達すると、そこまでアームを曲げていた力が解放されるため、曲げられていたばね鋼が跳ねるように一気にグリップを失う。専門的にはファイナル・ブレーク・アウェイと呼ばれる現象だ。この状態に陥ると車両は突然スピンモードに入る。タイヤやサスペンションの限界が低ければ変化も大したことはないが、性能を上げれば上げるほどしっぺ返しが強烈になってしまう。