意外に重要な「FF車」のリアサスペンション 進歩の変遷に見るクルマのあり方
ワンダーシビックのビームアクスル式
そこで、1980年代に入るとリアサスペンションの能力アップへのトライが始まる。おそらくその先駆けとなったのが、ワンダーシビック/CR-Xの「ビームアクスル式」だろう。構造的に見ると、このサスペンションは左右のトレーリングアームを車軸近辺で太いパイプでつないだものだ。トレーリングアーム式の弱点である横剛性を改善した方式だと言える。 ただ左右をつなぐだけだと片側のタイヤに入力があった時に両側のタイヤが一緒に動いてしまうので、右側ハブにスウェイベアリングを組み込んで2本のトレーリングアームとアクスルビームの間を剛結しないようにしてある。これによってサスペンション全体がひしゃげるように片側だけを可動にできるわけだ。左右輪は相対的にキャンバーが固定されており、サスペンション全体はボディに対してパナールロッドという連結棒でつないで横方向の位置決めがされている。縦方向の位置決めはトレーリングアームが担う。 当時のクルマはまだボディの剛性が根本的に足りなかったため、この左右輪が相対的に一体になった方式は大きな意味を持っていた。実際ワンダーシビックは、かなり意図的にタックインを起こそうとしてもリアタイヤがブレークするようなことは起きなかった。リアタイヤの問題の一応の解決をみたと言っていいだろう。
より高性能なダブルウィッシュボーン式
その後、コンピューター解析技術が進歩してシャシーの剛性が上がるにつれ、サスペンションを左右独立にしても成立させることが可能になっていく。そうなればより高性能を求めたくなる。ビームアクスルでは、ばね下重量が大きい上、地面に対するタイヤのキャンバー(対地キャンバー)は固定で変えられない。これをより理想的にしていくために、「ダブルウィッシュボーン」が採用されるようになる。 ダブルウィッシュボーンの基本的な特徴は、サスペンション単体での剛性が高いことにある。また、上下のリンクの設計を上手に行えば、他のサスペンション形式に比べ、車体がロールしても地面に対してタイヤを垂直に近い理想的な角度で保つことができる。タイヤをより上手に使えるのだ。 ただし、その前提としてサスペンションをマウントするボディの剛性が高いことが求められる。ボディの方がぐにゃぐにゃと変形してしまうと、サスペンションをいかに緻密に制御しても意味がないからだ。そういう意味で、ダブルウィッシュボーンはコストの高いサスペンションだ。シャシーへの要求、部品点数の多さ、開発の手間の多さがコスト高を呼ぶのだ。 バブルがはじけると、メーカーはこのリアサスペンションがオーバークオリティであるとの判断を下し始める。スポーツカーでもない乗用車にそこまでの高性能なサスペンションは必要ないと言う判断だ。さらにダブルウィッシュボーンはどうしてもスペース効率が悪い。ワゴンやミニバンが売れ始め、車内空間の増大が求められていく中で、リアサスペンションのコストダウンと、小型化の重要度が急速に増していく。