海賊版ブロッキング問題 憲法の観点から問題点を整理する
海賊版の漫画サイトをめぐるブロッキング問題がにわかに議論を呼んでいます。海賊版の横行は、漫画家や出版社などにとって著作権などが侵害され、非常に頭を悩ませる問題ですが、政府が問題サイトへのブロッキングを事実上の要請として行ったことについては、憲法違反ではないかと指摘する声もあります。憲法や情報法に詳しい京都大学大学院の曽我部真裕教授に、憲法の観点からブロッキング問題について寄稿してもらいました。 【画像】お手盛りか独立か? 報ステ・クロ現で注目のBPOとは?
◇ 4月13日、政府の知的財産戦略本部(知財本部)犯罪対策閣僚会議において、「インターネット上の海賊版サイトに対する緊急対策」が決定された。 そこでは、漫画コミックなどを中心に無断でコンテンツを無料配信する海賊版サイトである「漫画村」など3サイトが名指しされた上で、その被害が深刻であることから、「法制度整備が行われる間の臨時的かつ緊急的な措置」として、インターネット接続事業者(プロバイダー)が3サイトへのアクセスを遮断する措置(ブロッキング)を行うことが必要であり、所定の要件を満たせば法的にも可能であることが示された。(決定の文言上は、上記3サイトのブロッキング自体が現状で可能かどうかは明言されず、また、プロバイダーにブロッキングを求めてもいないことに注意されたい)。さらに今後、知財本部の下で体制整備を行うこととするとされた。 その後、4月23日にはNTTグループ3社がブロッキングを実施する方針を発表、波紋を呼んでいる。なお、問題のサイトはすでに閉鎖されている模様である。
政府「要請」の憲法上の論点
すでにネット上でも新聞などのメディアでも多数取り上げられているが、今回の政府の措置には法的に見て、さまざまな問題点を含んでいる。まずはそこから見てみよう。 法的には大きく分けて、(1)法制度整備なしにプロバイダーがブロッキングを実施することに法律上問題はないか、(2)政府がブロッキングを促すことに憲法上の問題点はないか、という検討が必要である。 これまでの議論では、(1)の中でも、「電気通信事業法」の通信の秘密侵害罪(※)が成立してしまうのではないかという問題点を中心に論じられている。確かに、こちらの方が直接的な影響が大きい問題であるが、すでに各方面で論じられているので、ここでは(2)の方に焦点を当てたい。こちらは今後議論されることとなる法制度整備なるものの是非を考える際に必要となるだろう。 ただ本件と憲法との関係を論じるのは、実は結構難しい。というのは、憲法は「民間と民間」の関係ではなく、「公権力(国)と私人(個人・法人)」との関係に適用されるので、プロバイダーが完全に自主的にブロッキングをする分には、憲法は直接関係しないからである。 憲法上の問題として分かりやすいのは、国が法律を定め、プロバイダーにブロッキングを義務付けた場合だ。