海賊版ブロッキング問題 憲法の観点から問題点を整理する
この場合、その法律が憲法の保障する人権を不当に侵害していないか、正面から問題となる。プロバイダーが国の手足としてブロッキングをしており、プロバイダーの行為が国の行為と同視される結果、憲法が適用されるという捉え方もできるだろう。その際に問題となる人権は、ブロッキングの結果として特定サイトの閲覧が遮断されることが「情報受領の自由」(憲法21条1項の表現の自由に含まれる)や「検閲禁止」(同条2項前段)に当たるのではないか、また、法律上の問題点として論じられているのと同様、プロバイダーがアクセス先を逐一チェックする点が「通信の秘密」(同条2項後段)を侵害するのではないか――などで、ユーザーである国民の権利が侵される恐れがある。 さらには「財産権侵害の場合の補償」(29条3項)といった問題もある。ブロッキング実施のためにはコストがかかるが、それをプロバイダーが負担する筋合いはないため、プロバイダーに対する補償が必要となるのである。 以上の議論は、法律で義務付けなくても、法律でブロッキングを認めた場合(実施するかどうかはプロバイダーに委ねた場合)でも基本的に同様だろう。
ブロッキングを立法化すべきか
これらの憲法上の論点をどのように考えるかは今後議論しなければならないが、憲法のハードルをクリアし、かつ実効性のある仕組みをつくるのは、かなり難しいように思われる。海外の例をみると、日本と同様の自由主義的諸国でも海賊版サイトのブロッキングの実例は少なからず存在するが、裁判所による命令が要件とされる例が多い。 なお児童ポルノについては、日本でもすでにブロッキングが行われている。これも政府からの事実上の要請に基づくものだが、児童ポルノ被害の深刻さやブロッキングの必要性がプロバイダー各社にも十分理解された上で自主的な取り組みとしてなされていること、「緊急避難」の要件を充たすことに争いがないこと、恣意的なブロッキングを防ぐための体制が整えられていること、といった点が、海賊版サイトのブロッキング問題とは異なり、同一視できない。 他方で、国が法律を定めることなく、プロバイダーにブロッキングを要請するにとどめた場合には、問題の状況が変わってくる。要請には法的な効力がないので、実際上はプロバイダーに対する強力な圧力となったとしても、訴訟で争い、裁判所が違憲判断をするということが難しい。その意味では、法律で定めた場合の前述のような憲法の制約が回避されてしまう。したがって、本来はこのような措置は法律で定めるべきなのである。これが、憲法の定める法治主義原理の要請することである。