海賊版ブロッキング問題 憲法の観点から問題点を整理する
自由主義国じゃなくなる?
ところで、今回の知財本部の決定については「政府が恣意的にブロッキングを求めるものであって自由主義国にあるまじきことであり、これではロシアや中国と変わらない」といった批判も一部に見られた。確かに、政府が、非公開の議論に基づいて特定のサイトを違法だと断定し、法律によらず、かつ緊急避難の要件を充たすかどうか怪しいブロッキングを暗に要請した今回の決定は、そのようなそしりを受けてもやむを得ないように思われる。とはいえ、そうしたレッテル張りをしたところで問題は解決しない。 海賊版サイトが跋扈する現状は確かに無視できない深刻な問題であり、表現の自由や通信の秘密といった重要な価値を尊重しつつ問題を解決するため、法的あるいは実務的な課題を一つひとつ冷静に議論して克服していくしかない。今回は、民間での議論は総じてそのような形で進んでいるように見え、大変心強く思われる。今後、政府がこうした議論をどのように受け止めるのか、その度量が問われている。 (※)「通信の秘密侵害」…電気通信事業法では、電話やメール、インターネットなどによる通信の秘密を第三者が知ったり、利用・漏洩したりすることを禁じており、違反には罰則が科される。ここでいう通信の「秘密」には、通信内容だけではなく、いつどのサイトにアクセスをしたか、通信相手は誰かといった「通信の構成要素」と呼ばれるものも含まれるので、アクセス先を確認して遮断に使うブロッキングには通信の秘密侵害の問題が生じるのである。ただし、形の上では通信の秘密侵害罪に当たる場合でも、刑法上は「正当行為」「緊急避難」などの刑法の定める例外事由の要件を充たせば、違法性が否定される場合がある。
----------------------------------- ■曽我部真裕(そがべ・まさひろ) 専門は憲法、情報法。2001年京都大大学院法学研究科講師、准教授を経て2013年から教授。パリ政治学院などで客員研究員や客員教授を務めた。放送倫理・番組向上機構(BPO)放送人権委員会委員。著書に『反論権と表現の自由』(有斐閣)など