[ ハリウッド・メディア通信 ] ゴールデン・グローブ賞 主要部門含む4部門ノミネート! 舞台ミュージカルを超えた 映画『ウィキッド ふたりの魔女』
第82回ゴールでン・グローブ賞が発表された。ハリウッド外国語映画記者協会から売却され、営利組織として再開した新体制のゴールデン・グローブ賞ノミネート結果に対し、相変わらず、米批評家からの批判が話題。デッドライン誌はまず、女優賞にマイク・リー映画『HARD TRUTHS (原題)』の英国出身黒人女優マリアンヌ・ジャン=バプティストがノミネートされていないことに、スター・ハングリーなアワード賞だと不服をコメント。さらに『デューン 砂の惑星PART2』のドゥニ・ヴィルヌーヴ監督、『ウィキッド ふたりの魔女』の監督ジョン・M・チュウなど、役者が多数ノミネートされている映画の監督がノミネートされていないことを上げていた。師走、映画『ウィキッド ふたりの魔女』旋風が巻き起こったアメリカ。アカデミー賞前哨戦のこれまでの予測を覆すほどの出来の良さは12月4日、ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞で作品賞、監督賞、主演女優シンシア・エリヴォとアリアナ・グランデの2人がスポットライト賞を受賞。米感謝祭の週末、ディズニーの『モアナと伝説の海2』に興収No.1を奪われたものの、4日からまた1位に再浮上。ゴールデングローブ賞では、ミュージカル・コメディ映画作品、主演、助演女優賞、卓越した興行成績を記録した作品におくる賞の4部門にノミネート。アカデミー賞に向けてのイエロー・ブリック・ロードが敷かれ、日本待望の公開も来年3月7日と決定。このコラムでは一足先に作品の話題をお届けしたい。 ・・・ 誰も知らない、もう一つのオズの物語 ライマン・フランク・ボームの名著「オズの魔法使い」(1900)にヒントを得て、児童書作家のグレゴリー・マグワイア作「Wicked: the Life and Times of the Wicked Witch of the West」(以下、「Wicked 」)が出版されたのが1995年。そのファンタジー・ワールドはオズの世界を全く別の着眼点から描き、動物が人間と会話できるほど知的だったり、マンチキン(オズ・シリーズに登場する小人国およびその住人)たちが中流の生活を送る平和な国だったという設定。物語は「オズの魔法使い」の悪い魔女ー西の魔女の幼いころを中心に、善悪の提議を考えさせられる小説である。 1996年、友達の勧めで「Wicked」の存在を知ったNYブロードウェイ作曲家のスティーヴン・シュワルツ。読む前から、タイトルだけで創作意欲が湧き、内容に共鳴。さっそく弁護士を通して舞台の権利を打診。すでに原作の映画化オファーは殺到し、映画会社ユニバーサルとの契約が決定していたが、送られてきた脚本がいまひとつの状態で承諾していなかった原作者マグワイア。そう感じていたのはユニバーサル映画のプロデューサー、マーク・プラットも同じ。原作から感じた魔法が感じられないと悩んでいたところに、シュワルツからのミュージカル舞台劇の提案が到来。もともとミュージカル好きなプラットは、これなら行けると映画化を寝かせることを決意。 シュワルツのピッチには、最初の曲のタイトル “ No One Mourns the Wicked (誰も彼女の死を嘆かない)"という5つのワードが書かれており、「誰も西の魔女の死を嘆かない」という、集団の敵意のこわさを危険信号とした内容が歌に込められていた。原作で意図した内容を呼応したピッチが原作者を口説く決め手だったという。 NYシアターガイドによると去年4月で7486回上演を記録。アンドリュー・ロイド・ウェーバーの「キャッツ」を抜いて4番目のロングラン上演ミュージカルとなっている。最初の上演の大成功でトニー賞(2004)では10部門にノミネート。エルファバ(西の魔女)を演じたイディナ・メンゼルがミュージカル主演女優賞、そのほかミュージカル衣装デザイン賞、ミュージカル装置デザイン賞も受賞。グリンダ(東の魔女)を演じたクリスティン・チェノウェスと両者とも新作映画の中でカメオ出演している。主演イディナ・メンゼルはあの『アナと雪の女王』のエルサの声優でもあるほど、その歌声は抜きん出ていてシュワルツのウェブサイトに当時の反響が記録されている。代表曲「Defying Gravity」の歌曲は、彼女がキーをオクターブ上げたいというリクエストで書き直された曲。劇場から映画館への移行はプロデューサーが映画化を急がずに待った甲斐もあって、映画館では、ミュージカルファンが、歌い出したそうに席でうずいていたほどで、上映時間2時間40分はあっという間。この映画は物語の前編で、続編は来年後半に全米公開予定。王道のミュージカル映画の幕開けが今、始まったばかりである。