[ ハリウッド・メディア通信 ] ゴールデン・グローブ賞 主要部門含む4部門ノミネート! 舞台ミュージカルを超えた 映画『ウィキッド ふたりの魔女』
全て生演奏で収録された楽曲
映画『クレイジー・リッチ!』(2018)の監督ジョン・M・チュウは中国系アメリカ人監督。監督とミュージカルの関係は知る人ぞ知る。南カリフォルニア大学(USC)で作ったミュージカル短編映画がスピルバーグの目にもとまったというハリウッド映画界を担う若手監督。幼いころ映画『オズの魔法使』(1939) を見て夢中だったチュウ監督にとって、この映画の監督に抜擢されたことは夢のまた夢。リン=マニュエル・ミランダの傑作ミュージカルを映画化した『イン・ザ・ハイツ』(2021) でもその演出の手腕を発揮。長年「Wicked」の映画権利をあたためていたプロデューサーのマーク・プロットは、まさに宿命的に、これだけ多様性のあるキャストやクルーにめぐまれたと映画の出来、公開のタイミングにも満足の様子。チュウ監督は、「この映画は、幸せが常にゴールじゃない」こと、「自分自身を表現すること、仲違いしてもお互い分かり合うまでコミュニケーションをとること」の重要さを主張。原作「オズの魔法使い」が出版されたときの風潮と同じく、原作「Wicked」が出版されたときもアメリカは9.11以降から湾岸戦争に突入した時代だったし、「WIcked」は時代の変わり目にあるんだ、と熱く語っていた。 監督は2人の主役を演じる配役探しも入念におこなったことも記者会見で明かした。多くの俳優がオーディションに参加したなか、英国生まれのシンシア・エリヴォはカジュアルにジーンズとTシャツでオーディションに登場。舞台「カラーパープル」でトニー賞(2016)ミュージカル主演女優賞を受賞し、映画『ハリエット』(2019)ではアカデミー賞主演女優賞、主題歌賞にもノミネートされている女優でもあり、彼女が歌う「The wizard and I」(魔法使いと私)は、チュウ監督自身も初心に戻ったように痺れる輝きに満ちていたそうだ。 アリアナ・グランデは、その知名度もさることながら、数々のミュージック・アワードを誇る有名シンガー・ソングライター。しかし、その完成された歌声は映画のグリンダ役がふさわしいかと監督は半信半疑だったという。しかし、アリアナ自身、幼いころから、このグリンダ役に憧れていてオーディションでも真剣勝負。監督が本当のグリンダに出会ったかと錯覚に陥ったと言うほど、彼女の不思議な魔力は、映画を観る人も納得の魅力溢れる配役である。歌曲はすべて生演奏、生収録でおこなわれ、臨場感のある撮影にはスタッフも涙したほどだそうだ。 米ピープルマガジンでは、一冊「Wicked」特集を設け、初の英語圏外ミュージカルは2007年の劇団四季であることにもふれている。西の魔女の歌う「Defying Gravity」は”自由をもとめて”と訳されているそうだが、直訳すると「重力に逆らって」という意味で、倒れても起き上がる、立ち直る力を意味している。SNSでは、米政権が変わることに対してのLGBTQコミュニティ連帯のシンボルとされるほどに、映画から、縛られない自由の価値観が共有され、クリスマス店頭も「Wicked」フィーバーで溢れている。
文 / 宮国訪香子