お医者さんだけが知っている。Apple Vision Proを手術で使う理由
流れを整理することをサポート
Gizmodo:ヘッドセットはここでどう活躍すると考えますか? Masson氏:すべてで使う必要はありません。あくまで環境を整理するためのソフトウェアですから。ただ、接触不要なシステムは、無菌環境化で多いに役立ちますね。ヴァーチャルスクリーンやホログラム、そこに表示されるリストや地図は、今まで不可能だった多くのドアを開けるかもしれません。無菌環境を脅かすことなく、例え急に必要になっても、デジタル上でアクセスすることができるわけですから。 もちろん、手術室内の助手全員がヘッドセットを着けてアシストする必要はまったくありません。iPadやPC、スマートフォンがありますから。我々が提供する主となるプロダクトもタブレット端末ベースです。ただ、多様な環境で使える可能性とポータビリティには注目しています。 Gizmodo:先日の手術では、外科医はヘッドセットを装着していませんでした。今後は、医者も着用していく予定なのですか? Masson氏:外科医という立場で言わせてもらうと、正直それは考えてもいません。少なくとも今はないです。素晴らしい技術を見ると、それを自慢したくなりますよね。これを使えばもっとできる!って。でも、ヘッドセットの有無に関わらず、手術は行なわれますし、我々は最善を尽くします。 なので、(ヘッドセットを医者が装着するかどうかは)問題解決の手段にはなりません。臓器がVR空間に表示され、どこをどう切って縫うかのガイドが出るなんて想像をしがちですが、正直それは必要ないんです。私たち医者は(VRヘッドセットがなくても)そこは十分わかっているしできていますから。私たちが苦手なこと、できていないことは全体の整理整頓なんですよ。 Gizmodo:VRヘッドセットの活用を単なるギミックや、医療の脅威と考える人も中にはいると多います。超えるべき壁はあると思いますか? Masson氏:まず最初によく問われるのは、感染対策はどうなるのかということ。これ、外科医がメガネをしていたら、メガネも同じことです。髪の毛もヒゲも同じことです。結局、新しい技術なので、質問すべきは役に立つのかどうか、問題解決策になるのかどうかなのではないでしょうか。その仕事にベストなアプリケーションであれば、それがそのまま答えになると思います。 Gizmodo:そもそも話の元に戻るようで恐縮ですが、今ここで話しているのは市場最先端の技術ですよね。『スタートレック』みたいな。なのに、解決しようとしているのは地味な問題なんですよ、ね? Masson氏:うーん、別に医療ってつまらないって言いたいわけではないのです。ただ、基本の「き」って目を向ける人が少ないよねっていう話です。そして、自動車業界、国防、航空業界、製造業界、ひいてはAmazon(アマゾン)の整然とした組織系統と比較すると、医療界だけこんなに遅れてしまっているのはちょっとショックですよねという話。 医療業界うんぬんよりも、(Apple Vision Proでやろうとしていることが)多くの人にとってはあまり面白味のない話なんですね。一流の専門家たちが裏に回って根幹たる部分まで戻り、形を考え直すのは難しいと思います。でも、時にそれは前に進むために必要なことなのです。医療業界は、今ついにそこに取り掛かろうとしているのだと思います。
そうこ