人類の歴史は「所有からの解放」へ。大阪・関西万博オランダパビリオンの建築家が説く、サーキュラーエコノミーへの道
サステイナブルからサーキュラーエコノミーへ
ラウ氏が提唱する「サーキュラーエコノミー」は、「サステイナブル」とは一線を画する。 「サステイナブルは現状のものを少しだけ良く、健康に、省エネに、材料を減らして……という具合に、現状の経済システムを最適化しているに過ぎません。だから、根本的に経済システムを変えるには、サステイナビリティではダメなのです」 一方、サーキュラーエコノミーへの移行は、経済システムを根底から変えることになる。 「将来的に私たちは資源や材料を所有するのではなく、借りるのです。鉱山からサプライヤー、製造業者、消費者へと価値が創造されるバリューチェーンがありますが、私たちはそれに加えて逆向きのチェーンを生み出さなければなりません。 例えば、掃除機。消費者はそれを借り、要らなくなれば製造業者に戻す。製造業者は材料代を消費者に払い戻す。今度は製造業者が要らなくなった材料をサプライヤーに返し、サプライヤーは材料代を払い戻す。サプライヤーは使わなくなった資源を鉱山に返し、鉱山の管理者である国家がその資金を払い戻す。そしてどこかの時点でまた材料が必要となれば、逆向きのサイクルが生まれる……つまり、経済を図書館のように回すのです。サービスとしての材料(Material as a Service)です。これは自由と責任によって運営されるビジネスモデルです」 このモデルでは、最終的に鉱山の資源がなくなったときにも、材料とお金のフローは続く。「すべての材料は『リミテッド・エディション(限定版)』です。限定されているものを無限のニーズに使えば、困ったことになる。私たちは、限られた材料を再利用する形で無限のニーズに対応しなければなりません」
金融業界も注目する材料の価値循環
現在は、製品を解体して材料を再利用するよりも、すべてを廃棄して新しいものを使った方が安い上に手っ取り早い。また、材料の再利用に対して規制を設けている国もある。これを覆すには、法規制を変え、製品の修理や材料の再利用に減税措置を導入するなどの工夫が必要だ。また、すべては返却され、再利用され、循環するという前提に基づけば、製品の設計方法や従来の商習慣など、すべてが変わる。サーキュラーエコノミーへの移行は、簡単なことではない。 しかし、この構想を実現するための動きはすでに始まっている。ラウ氏はまず、建築セクター向けに「マテリアルパスポート」と「マダスター(Madaster)」というツールを開発した。マテリアルパスポートには建物に使われた材料がすべて記載され、それはオンラインプラットフォームのマダスターに登録される。そこでは材料の経年と時価が反映され、建物の金銭的価値が自動的に計算される仕組みになっている。また、材料の再利用をどれほど考慮しているかを指数化した「サーキュラリティ・インデックス」も表示され、建物を売買する際の評価に利用できる。