人類の歴史は「所有からの解放」へ。大阪・関西万博オランダパビリオンの建築家が説く、サーキュラーエコノミーへの道
「普通の減価償却だと、建物の価値は最終的にゼロになりますが、この方式だと材料の価値は残るので、建物の価値はゼロにはならない。だから、建物は要らなくなっても、材料の価格は支払われる。これは非常に大きな金銭的インセンティブです」 10年前は耳を貸さなかった人たちも、今はお金を払ってラウ氏の話に耳を傾ける。特に金融業界や家族経営の会社の関心が高いという。オランダでまず導入されたマダスターは、現在、イギリス、スイス、ドイツ、ノルウェー、デンマーク、ベルギー、オーストリアでも使われている。
オランダパビリオンに込められたもの
サーキュラーエコノミーへの移行はさまざまな変化を必要とするが、ラウ氏によれば、中でもいちばん大切なのは、1人1人のマインドセットの変化だ。 「所有からの解放です。私たちは所有物で人を判断しがちですが、実際は所有することにはなんの意味もない。所有することでいい人間になれるわけじゃない。だから、私たちが学ばなければならないのは、何も持たずとも人として成長できるということです。それは、人類史の次の章のようなものです」
大阪・関西万博のオランダパビリオンにも、このメッセージが込められている。建物の材料はすべて取り外し可能で、再利用を前提に設計された。万博終了後に建物は解体され、別の場所で再建して使えるようになっている。現在は次のユーザーを探しているところだという。 「建築は常に、人間の意識レベルを映し出す鏡です。エジプトのピラミッド、ギリシャの寺院、ローマの教会……これらには、人間とその精神世界の関係が見られます。万博のオランダパビリオンでも、私は新しい認識を提示したい。この建物は、『私たちは変わらなければならない』という宣言なのです」 1国だけでは解決できないグローバル問題が山積する中、万博は各国が知恵を持ち寄るいい機会となる。ラウ氏は、「日本文化の本質は、西洋文化よりも非常にサーキュラーエコノミーに近い」と指摘する。「日本の歴史を振り返れば、さまざま段階の考え方が見えてくるはずです。その伝統の中で培ってきたことを、21世紀の意識レベルに押し上げることです」人類の次章は、私たち1人1人の意識に託されている。パビリオンに込められたラウ氏のメッセージは、万博終了後も受け継がれていくことだろう。
取材・文:山本直子