F1界に戻ってきたトヨタ 15年ぶり、ハースと提携
失意と無念の09年撤退
「一寸先は闇」「生き馬の目を抜く」など、巨額の「カネ」が飛び交うF1界の特異な一面を示す表現は多い。今回の提携も、「トヨタがそのうちPUを製造する」とか「トヨタがハースを買収する」といった臆測がまことしやかにささやかれた。たしかに、トヨタの規模からすれば、ハース買収は「簡単なこと」だろう。 オールトヨタ体制で参戦した02~09年の8年間で2位が5度、3位も8度、ポールポジションも3度マークしたが、優勝には届かず、失意のうちに撤退した過去がある。09年11月4日。トヨタ自動車東京本社で、豊田社長(当時)がF1撤退を発表した。金融危機に端を発した、赤字経営からの脱却を目指す道筋での決定。その隣で目頭を押さえた山科忠専務(同)は、トヨタF1チームの代表だった。もう少しで頂点という矢先の撤退に、無念の涙を流した。 それから15年。今回はまず、人材育成や子供たちの夢といったことを前面に打ち出しての参画だ。小松代表によると、現時点ではTPC(2シーズン前のF1マシンを使うテストプログラム)で人材トレーニングや若手ドライバーのテストにフォーカスする予定。トヨタと協力してテストするのは、早くても来年後半になるという。 ◆角田の新しい選択肢に F1で現在の10チーム、20人の正ドライバーのうち、日本人はRBの角田裕毅ただ一人。フル参戦4年目の角田の奮闘は特筆に価するが、強力な後ろ盾はなく、毎年のように来季の契約が注目される立場だ。今年は早々と6月にRBとの契約延長(25年まで)が発表された。RBにホンダ・レーシング(HRC)を介してPUを供給するホンダのバックアップはあるが、正ドライバーの決定権はチーム側にある。 兄弟チーム、レッドブルのセルヒオ・ペレス(メキシコ)の不振がクローズアップされるにつれ、角田やRBでドライバーを務める勢いのあるリアム・ローソン(ニュージーランド)のレッドブル昇格の可能性がささやかれることも増えてきた。F1界で角田の純粋な速さと技量は確固たる評価を得ていて、レッドブル・グループ以外のチームにとっても正ドライバー候補に挙がる。 今回、ハースがTGRと提携したことで、角田が将来ドライバーを務める候補先の一つになったのは事実だろう。「ホンダ系」の角田も、COTAで「トヨタがF1との関係を深めることは日本のモータースポーツにとっていいことだと思う。ホンダとトヨタでいい戦いがあるのかなと」と歓迎した。今季の角田はハース勢とのバトルが多発し、少なからぬ因縁も生まれているが、F1界では数少ない日本人同士とあって、角田と小松代表もサーキットなどで普通に言葉を交わすなど仲は良好。将来の選択肢が増えることは、角田にとって好ましいことだろう。 ◆26年にホンダ復帰、新時代へ TGRとの提携発表以降もハースは入賞が続き、米国GPでは7ポイント、次のメキシコGPでも8ポイントを積み上げ、3戦を残して計46ポイントでコンストラクターズ(製造者)部門で10チーム中7位につける。角田が奮闘するRBは計44ポイントで8位。ハースもRBも激しい「中団争い」の真っただ中にいる。 ホンダは、レッドブルのマックス・フェルスタッペン(オランダ)の年間王者を手土産に、正式には21年限りでF1活動を休止。22年以降はホンダ製に変わりはないものの、表向きはHRCとしてレッドブル・グループにPUを供給し、今季は「ホンダRBPT(レッドブル・パワートレインズ)」のPU名で戦っている。 そして、PU規定が一新される26年からは、ホンダが正式参戦を再び開始する。今度は大富豪、ローレンス・ストロール氏が会長のアストンマーティンF1チームにPUをワークス供給する。26年からはアストンマーティン・ホンダ、さらにハースと提携するトヨタが、参戦の形は違うが同じF1のグリッドに並ぶことになる。日本のモータースポーツシーンを引っ張るホンダとトヨタがそろい踏みする26年。F1新時代の幕開けになりそうだ。