「認知症となった親の実家どうすれば」その数221万戸、空き家に悩む人たちとその対策 #老いる社会
2020年に施行された改正民法は第三条の二で、<意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする>と明記された。この意思能力をもたないと目されているおもな対象者が認知症だ。 この改正は、認知症当事者の財産の保護にも有効だ。ある人が自宅の不動産を売却する契約をしたところ、その人が認知症だったとわかれば、その契約は無効になる。高齢者をだまそうとする業者を制限する規制というべきだろう。 一方で、認知症の親を抱える家族にとっては、この改正民法は不動産取引に関してハードルになる可能性がある。本人が「売却したい、売却してもいい」と言ったとしても、すでに認知症と診断されている場合、意思能力がないとして不動産会社や行政機関は受け付けない。2008年には犯罪収益移転防止法も施行され、不動産売却時の本人確認、意思の確認は厳しく定められている。 そのため、実家の不動産について何らかの処分を想定している場合、所有者が認知症になる前の対策か、なった後の対策が必要になる。 司法書士の宮田浩志さんは、認知症になる前は二つの対策、なった後は一つの対策があると言う。
認知症になる前の対策が重要
認知症になる前の対策は二つ、「家族信託」と「任意後見制度」だ。 「家族信託」とは、いま財産を持つ人(委託者)が信頼できる親族(受託者)に、財産の管理や処分をする権限を託すものだ。契約後、委託者が認知症となっても、あるいは、亡くなって相続になっても、その要望に沿った財産管理ができる。不動産は信託契約に沿っていれば賃貸も売却もできる。 「親子間だけでなく親族間でも契約が結べ、柔軟で軽負担な財産管理ができるのが家族信託です。ただ、家族信託について弁護士や司法書士でも精通している人はごくわずかで、制度自体が広く認知されていない状態です」(宮田さん) 「任意後見制度」は、本人が元気なうちに、信頼できる人を任意後見人に選び、任意後見契約を結んでおく制度だ。たとえば将来の生活資金確保のために自宅の売却も予定していれば、不動産の売却権限を許可することも任意後見契約に盛り込んでおく。本人の判断能力が不十分になれば、家庭裁判所が専任した任意後見監督人のもとで、任意後見人は、財産管理や本人の生活状況について定期的に報告する義務を負う。支出は必要最低限で、監督人への報酬も発生する。