「認知症となった親の実家どうすれば」その数221万戸、空き家に悩む人たちとその対策 #老いる社会
一方、認知症になって判断能力が低下した後に対応する制度が「法廷後見制度」だ。この制度は、財産管理を行う成年後見人を家庭裁判所が選ぶ仕組みだ。弁護士や司法書士など家族以外が選ばれるケースが多い。合理的で必要最低限な支出のみになるほか、住居を売却するには裁判所の許可が必要となる。空き家を処分したい親族と、本人の財産を守りたい後見人との間で対立するケースもある。 つまり、不動産に関する有効な対策としては、親の判断能力が低下する前にしておく必要があるということだ。 「困らないくらいの貯金はある」などあいまいな表現だと適切な老後設計ができなくなる。保有する資産や年金などの収支状況に加え、印鑑や通帳の場所も子どもに明かし、不動産の意向も親子間で話し合っておくことは親にとっても、後の心配を減らし、快適な老後につながる。 そうして事前に話をつけておいたことで、不動産でもめずに済んだ人もいる。
家族信託で叔母のマンションを売却
「叔母と甥の関係だと、法廷後見制度では家庭裁判所から自分が後見人に選ばれないリスクもあったので、うちは『家族信託』を選びました。費用も家族信託の実行時の80万円のみで、月の支払いがないことも叔母にとってよかったと思います」
東京都西部に住む増田和夫さん(仮名・61)はそう語る。千葉県市川市の3LDKのマンションを所有し、独居をしていた25歳上の父方の叔母(86)と家族信託の契約を結び、2年ほど前にそのマンションを売却した経験がある。 「叔母は私が小4になる頃まで私の家族と一緒に暮らしており、もともと家族のような関係でした。その後結婚し、百貨店の正社員として定年まで勤務、オシャレで闊達でした。27年前、夫婦でマンションを購入したのですが、その数年後に夫は他界。子どもはなく、『将来は頼むね』と言われていました。叔母は80代になり、2021年頃から忘れっぽくなり、思い出せないとパニックになることが出てきた。脳のMRIを撮ったら、脳の萎縮が見つかりました」 増田さんが市川のマンションを訪れると、やかんが焦げが目立たない鉄器に替わり、調理もほとんどしていない様子が見てとれた。そこで高齢者施設への入居を叔母と話し合い、2021年半ば、叔母は施設に入居した。2人で家族信託の話し合いをしたのもそのときだ。マンションの管理も増田さんに託されることになった。しばらくの間、増田さんはマンションの手入れもしていた。 「梅雨時期は空気の入れ替えに行っていました。ただ、都下の自宅から叔母のマンションまで車で通うと往復3時間。手間を考えると、売却してもよいのではと思いました。叔母に尋ねると『置いておいても価値が下がるから』と処分に首肯しましたが、念のため2カ月ほど時間を置きました」