「認知症となった親の実家どうすれば」その数221万戸、空き家に悩む人たちとその対策 #老いる社会
「母に『自宅をどうしようか?』と水を向けたんです。そしたら、母はハッと我に返るように『私は家に戻るんだから。絶対に売っちゃだめ』とキツく言ったのです」 平田さんは母の言葉を守った。水道や電気を止めず、固定資産税、火災保険も支払い続けた。防犯対策で近所の人に駐車場を開放し、帰宅の際は電気をつけっぱなしにもした。当時、不動産業者に相談すると、最寄り駅から徒歩10分という利便性もあり、「1000万円」と査定された。だが、文子さんが賛成しないかぎり、売却はしてはならない、と考えた。 文子さんは2019年秋、平田さんのこともわからなくなり、その状態のまま昨秋、他界した。平田さんは「実家じまい」を考えているが、まだ母親との思い出もあり、進められていない。 「相続は済んだので、もう私が処分できるのは確かです。一周忌の今年10月までには何とかしたいのですが、他人から見たらガラクタでも母との思い出が詰まっていて……。処分を先延ばししています」 そんな迷いの中、延岡の実家は空き家状態が続いている。
認知症の人が所有する住宅は約221万戸
空き家は、この10年ほどで深刻になってきた課題だ。総務省の調査によると、2018年に空き家は全国で849万戸。全国の、総住宅数に占める空き家の割合(空き家率)は13.8%だった。その後も増え続けており、野村総研によると、2023年に1293万戸、19.4%まで増加すると見られている。空き家を放置すれば、「倒壊・破損」「放火の危険」「不法投棄」「不審者や犯罪の危険」(政府広報)といったリスクが高まるほか、所有者にとっては固定資産税や都市計画税、管理費用なども負担となる。 こうして空き家として放置しないためには、所有者による「売る」「貸す」「解体する」などの対応が必要だ。 問題はその所有者が認知症になったときだ。 認知症も現代日本の大きな課題だ。厚生労働省の推計によれば、2025年の認知症の人は約730万人、65歳以上の5人に1人に及ぶと予測されている。そんな認知症の人が所有する住宅は2021年で約221万戸、2040年には280万戸になると推計されている(第一生命保険経済研究所)。もともと空き家自体が課題だが、その上に認知症の人の所有という問題も重なっている。 認知症になった人の不動産にどう対応するのかは、家族にとっては悩ましい問題だ。認知症になった場合、商取引や法律行為ができないからだ。