春はシュンラン、初夏はアワチドリ、日本のランを庭でもっと気軽に!ラン愛あふれる育種家の思い【趣味の園芸1月号こぼれ話・後編】
『趣味の園芸』2025年1月号の特集「『きれい!』が見つかる ラン」では、華やかな洋ランたちをしのぐほど色鮮やかなエビネについて、育種家の山本裕之さんに紹介していただきました。 ウェブだけで読める「こぼれ話」前編では、誌面で紹介しきれなかったエビネの大株仕立てついて紹介しました。後編は初夏に咲く日本のラン、アワチドリの育種についてです。 ウチョウランの写真
千葉県のランに愛着をもって
編集部(以下、編):山本さんはエビネのほかに、ウチョウランの仲間のアワチドリやシュンランの育種もされているんですよね。 山本裕之(以下、山):そもそも山野草として扱われているウチョウランは、自然の状態で変異の多かった北関東産の個体を親にして交配されることが多かったんです。この地域のものの多くは冷涼な場所に自生していたため、暑さに弱いんですよ。 編:夏越しが難しいと聞いたことがあります。 山:私は園芸学が専門でしたので、見た目だけにこだわらず、暑さに強くするとか丈夫で長く咲くとか、誰でも育てられる一般の園芸品種にすることを目的に、植物自体の性質の改善をしてきました。特に耐暑性の強い丈夫なものを交配親にすることで、暑さに強い系統の作出に成功しました。 編:どんなものを交配しているんですか? 山:まず千葉県のアワチドリ。これは私が千葉出身なので地元のランはかわいいから(笑)。それから鹿児島のサツマチドリ。夏に40℃近い場所に自生しているのでもともと暑さに強いうえ、花を咲かせながら翌年用の新しい球根をつくり、花が終わるころには親球と同程度に成長する性質があります。 編:ウチョウランは違うのでしょうか? 山:普通のウチョウランの多くは、花が終わりに近づくころから球根をつくりはじめるイメージ。暑さで葉が枯れてしまうと新しい球根はまだ未熟なので、翌年は咲きません。サツマチドリを交配親に使うことで、暑さの厳しい都市部でも育てることができるようになりました。 編:育てやすくなるのはうれしいです。 山:あとは、ウチョウランの仲間は花が小さいので、多くは花を大きくすることや、花色・花型の変化を求めて交配されてきましたので、性質の改善はほとんどされていませんでした。私は、花が小さくても大きな花に負けないように、たとえば花をたくさん咲かせるとか、花の並び方をきれいにするとか、花色の濃淡にメリハリをつけるとか、花茎を丈夫にするといったことを行ってきました。 編:性質の改善といっても、いろいろあるんですね。 山:こうした頭で考えられる性質だけではありません。自分自身の感覚で、人の心を惹きつけるさまざまな要素を作品として組み入れました。余談ですが、アワチドリにまつわる物語「濃溝の滝とあわちどり伝説」(蘭裕園ホームページに掲載)もつくりましたので、ご覧いただけたらうれしいです。 編:ウチョウランの育種をされるきっかけは何だったのでしょうか。 山:やはりアワチドリですね。世界で千葉県にしかないものですから、千葉県生まれの私としては特別な思いがあって。普通のアワチドリの花は紫色に不規則な点があるのですが、数千~数万株に1つくらいの割合で見つかる白花や中心にのみ斑のある花などをもとに、バリエーションを広げました。