女性が活躍する「こみち噺(ばなし)」、男性落語家が初めて演じます。
女性が活躍する「こみち噺」、男性落語家が初めて演じます。
「死神」ならぬ「死神婆」。「あくび指南 女版」。「井戸の茶碗 母と娘編」。あの「らくだ」に、何と彼女が登場する「らくだの女」――柳亭こみちさんが創作する「こみち噺」が今、大人気だ。 演じるのが男性落語家、登場人物も99%男性という古典落語の世界で、女性を主人公にしたり、新たに女性を登場させたり。昨夏の『この落語、主役を女に変えてみた』は、発売と同時に売り切れ、満員札止めとなったという。 こみちさんと言えば、落語協会で女性落語家が結婚したのも初ならば、2児の母親で真打になったのも落語界史上初と、話題になった。 「真打昇進時は授乳中でしたね(笑)。古典をまっすぐに演(や)ってきましたから、当時は女性落語家という呼び名がイヤでたまらなかった。でも、女性である私が演じる死神は、どうやっても凄腕の男性落語家のリアリティにはかなわない。考えに考え、死神を老婆版にしたところ――」
寄席で、どかんと笑いが起きた。 「女性が活躍している噺は、何より私自身が楽しんで演れるんです」 高座では化粧もし、女ものの着物で演じるのも、師匠・柳亭燕路(えんじ)さんの「誰でもない、おまえらしく演ればいいよ」の言葉があってこそ。大師匠の故・柳家小三治(こさんじ)さんは「誰かがパイオニアにならないと、あとがない」と後押ししてくれた。 「古典の男性が演じられないから女性を主人公にしている、と思われてはいけない。そうではなくて、今リアルに生きている私や、客席の女性たちのいのちを古典落語に吹き込みたいと思っています」 最近では、楽屋で、先輩落語家に聞かれることも増えた。 「今日も“女”やるのかい?」と。 こみち噺の数も70を超えている。 6月の『この落語、主役を女に変えてみたⅡ』では、初めて男性落語家がこみち噺を演じる。 「今からどきどきしています。こみち噺をいろいろな落語家に演じてもらうのが夢でしたから。女性のお客様も増えてきた今この時代の噺を、未来へ残していきたいですね」