窪田正孝の参戦が熱すぎる…玉森裕太”祥平”の成長に心震えたワケ。スペシャルドラマ『グランメゾン東京』 考察レビュー
個性際立つ新キャストが物語を盛り上げる
仲間にも見放されたことで、かつてはやる気に満ち溢れていたスタッフたちの表情にも諦めの色が浮かび、店の中全体がピリピリとしたムードに覆われる。こんな彼らが見たかったわけではないのに。 かつてライバル・gakuの江藤不三男(手塚とおる)が言っていた「星を獲った店は、二度と星を落とせんという宿命を背負うことも忘れんように。もしも、星を落とすようなことがあったら、その店は確実に終わりまっせ」という台詞が頭をよぎった。 このスペシャルドラマで注目されたのは、なんといっても新キャストの存在だ。 『地面師たち』(Netflix)と『わたしの宝物』(フジテレビ系)で全く異なる演技を披露し、話題を集めた北村一輝と、今年No.1ドラマに挙げる人も多い『宙わたる教室』(NHK総合)で主演を務め、その実力が改めて証明された窪田正孝。今年の顔と言っても過言ではない2人が参加したことにより、物語は大きな盛り上がりを見せる。 湯浅は飄々としていて、一見何を考えているかよくわからない。だが、尾花と意見がぶつかり、「シェフは俺です。従ってもらいますよ」という一言で黙らせた時の表情の圧に驚いた。窪田はこういう静かな印象の中に強さを秘めた役がよく似合う。 そんな湯浅は尾花とともにグランメゾン東京に現れたかと思いきや、祥平に喧嘩をふっかけ、2人は伊勢海老の料理で対決することに。結果、湯浅の料理はみんなを唸らせるが、祥平の料理には誰もが黙り込む。「せっかくの素材、お前殺してるよ」という湯浅の酷評に悔しさを滲ませる祥平の表情にはこちらまで胸が痛くなった。
祥平(玉森裕太)の成長
この勝負をきっかけに、京野と倫子は店を終わらせることを決意。gakuのシェフ・丹後学(尾上菊之助)にスタッフ全員の雇用を頼み込むが、そこで祥平が萌絵と芹田を連れ、丹後にお金を貸してほしいと頭を下げにきたことを知る。手も足も出ない状況であっても、若いスタッフたちはまだ誰も諦めていなかったのだ。 その筆頭にいるのが祥平であり、今回のスペシャルドラマは彼の成長物語でもあった。尾花が転落するきっかけとなった事件で誤ってアレルギー物質を料理に混入させてしまい、そのことをずっと負い目に感じながら生きていた祥平。 彼は決して天才ではなく、尾花への憧れと嫉妬の間で絶えず揺れ動く心情を玉森裕太が繊細に表現してきた。だけど、いつだって料理への情熱は祥平の中で消えることなく燃え続けていて、だからこそ彼が作るものは人の心を動かすのだろう。 倫子からシェフの座を譲り受けた祥平のもと、スタッフたちは新メニューの開発に着手。完成した料理はリンダから高評価を得る。だが、祥平にとって何よりも嬉しかったのは尾花の反応だろう。 「ごちそうさまでした」とたった一言だけ告げ、深々と頭を下げる尾花。それは彼なりの料理人に対する最大限の敬意と称賛だ。こんなにも台詞で語らない、胸を震わすシーンがあっただろうか。