少年院の子ども達の悲痛な声「親に自尊心を無視された」
親が自分のプライドを優先させてはいけない
数年前、テレビ朝日の非行少年をテーマにした番組制作のお手伝いしたことがあります。栃木県にある喜連川少年院に、カメラとマイクをもって入らせてもらいました。10代半ばから後半の少年たちからいろいろな話を聞きました。 当時、キャスターをなさっていた渡辺興二郎氏のインタビューは実に見事でした。誘導尋問はせず、好きに話してもらったのです。みんな率直に語ってくれましたが、彼らは1人残らずといっていいほど家族のことばかり語るのでした。また、みんな共通して、表現はちがってもこんなことをいいました。 「ぼくにもぼくのプライドや自尊心、世間体、そういうものがある。親にも親の世間体やプライド、自尊心がある。メンツもある。お互いがもっているそれらがぶつかりあったとき、ぼくの親はどんなことがあっても絶対、自分のメンツやプライド、世間体、自尊心を優先して譲らなかった。そういう親だった」 どの少年もいろいろな話のなかのどこかで必ずいうのです。それも、とても強い口調でいいました。 先ほどのお父さんにも、この話をしました。お父さんのとった態度がすべて正しかったとか、息子のほうがすべて悪かったなどということはないのです。反対に、息子が正しく、お父さんが間違っているとも限りません。どちらにも主張すべき点と反省すべき点があるのです。 こんなときには、全面的に両親がプライドを捨ててくださることがいちばんだと私は思っています。 「そんなことできるものか」と思われるかもしれませんが、親が自己のメンツを立てるために、自尊心をつぶされる子どもの気持ちを考えてみてください。 「わたしの親は自分のことしか考えていない。わたしの気持ちなんてどうでもいいんだ」そんなふうに思い、親への信頼感をなくしてしまうでしょう。 いつも親にプライドを傷つけられ、自尊心を無視されてきた子どもは、親を含めた周囲の人に対する猜疑心が強くなります。他人を信じられなくなってしまうのです。反対に、子どものいいぶんや主張を受けとめられる懐深い親に対しては、素直になれるはずです。そして人を信じることができるでしょう。 「お父さんは、ぼくのことを尊重してくれる」という安心感は、子どもの情緒を安定させ、親のいうことを素直に聞けるようになり、周囲への信頼感をもてるようになるのです。