松重豊が主演、脚本、監督の三刀流で決意の「孤独のグルメ」映画化「集客できなければ井之頭五郎から身を引くつもり」
俳優の松重豊(61)がテレビ東京の人気ドラマを映画化した「劇映画 孤独のグルメ」(10日公開)で主演、脚本、監督を務めた。「集客できなければ、(主演の)井之頭五郎から身を引くつもり」と強い決意で臨み、日本を飛び出してフランス、韓国でも撮影を敢行。主題歌は学生時代のアルバイト先の同僚で40年来の親友である「ザ・クロマニヨンズ」の甲本ヒロト(61)に依頼した。(有野 博幸) 輸入雑貨商の井之頭五郎が、仕事で訪れた土地で食事をする人気ドラマがロードムービーになった。松重は「ヒューマンドラマであり、ラブストーリーでもある。映画として面白いと思う要素は全部、詰め込みました。コメディーとしても『思っていたより、笑っちゃったよ』というお土産を持って帰ってもらいたい」と呼びかけた。 シンプルに食べっぷりと心の声が魅力。その世界観、味わいを守るため、自らメガホンを執ることを決めた。「映画関係者に過去の成功体験を持ち込まれたら、全然違う作品になる気がしたんですよね」。その懸念を抱えながら、韓国の世界的名匠であるポン・ジュノ監督(55)にオファーしたが、スケジュールの都合で断られ、「だったら、僕が先頭に立った方がスムーズに進むだろうなと思って、監督としてジャッジできるようにしました」。 内田有紀(49)、磯村勇斗(32)、オダギリジョー(48)、杏(38)ら俳優陣には直々に手紙を書いて出演オファーした。「やっぱり思い描く人に役をやってほしいですからね。台本と一緒に出演依頼のラブレターを送りました。返事を待つ間は、ドキドキして青春の淡い恋を思い出しました。結果的に監督デビュー作の初恋はすべて成就しました」 撮影現場では主演俳優であり監督。役柄のスーツ姿のまま、モニターで映像をチェックした。「主役の彼(松重自身)には、何も期待していません。要求したことはできる俳優さんです」。ほかの出演者には「基本的にお任せです。編集中も含めて100回以上見ても、内田さんの芝居には泣かされます」。俳優の底力を改めて実感した。 日本のエンタメ界を盛り上げる起爆剤を目指す。映画や配信で世界的ヒット作を生み出す韓国の状況も踏まえて「映画もテレビも過渡期を迎えていて、今まで通りのやり方だと時代遅れのような気がしています。監督も俳優も助け合っていかないと、日本のエンタメは衰退しちゃう」という危機感を意欲に変えた。 監督を引き受けたことで、大きな責任を感じている。「何度も見返していますが、面白くて仕方がない。ひとつも妥協はない。自慢の子供のようです。集客できなければ、井之頭五郎から身を引くつもりです」。その一方で「もし、これが『面白い!』という評価をいただけたら、このスタッフを抱えて『孤独のグルメ』を続ける選択肢もあるし、食べ物を扱う作品を作ることに優れた集団として海外に進出するチャンスだと思っています」と力を込めた。 約40年前、下北沢の中華料理店「珉亭(みんてい)」で同じ日にアルバイトを始めた親友の甲本ヒロトが主題歌「空腹と俺」を書き下ろし、念願のタッグが実現した。10代で出会った頃、映画監督を目指していた松重は自主映画の主演に甲本を起用したが、資金の問題で断念した。「あれが完成していたら、貴重な映画になっていたでしょうね」 今回、珉亭で写真撮影を行った。「よく見ると、しわが増えて、白髪が増えたジジイ2人なんだけど、やっていることは40年前と変わっていない」。甲本がザ・ブルーハーツを結成して、ブレイクする様子も近くで見守ってきた。「当時は音楽業界の頂点に上り詰めた彼を下から眺めることしかできなかったけど、僕も徐々に俳優として認知されるようになって、一緒に仕事ができた。本当に幸せです」と喜びをかみ締めた。 でき上がった曲を聴いて、青春時代がよみがえった。「プロのミュージシャンであるヒロトに失礼なことかもしれないけど、『昔の俺たちみたいな曲を作ってほしい』とお願いして、書いてもらった。本当に、おなかをすかせてバイトをしていた、あの頃の俺たちみたいな曲。聴いているうちに涙が出ました」。以前から「孤独のグルメ」の大ファンである甲本からは「豊は普段、一緒に飯食っている時と全然、変わらないな。それがいい」と自然体の演技を称賛された。 かつて松重が監督、甲本が主演した幻の自主映画には、三谷幸喜氏(63)も出演していた。「三谷さんも下北沢の界隈(かいわい)にいたんですよね。確か、三谷さんの家のシャワールームでも撮影しました」。あれから約40年。今作を東宝スタジオで撮影していると、隣のスタジオでは三谷氏が「スオミの話をしよう」(長澤まさみ主演、24年公開)を撮っていたという。「あの界隈にいた人がエンタメの最前線にいる。感慨深いですね」と思いを込めた。 ◆松重 豊(まつしげ・ゆたか)1963年1月19日生まれ。福岡県出身。61歳。明大文学部演劇学科在学中に三谷幸喜氏率いる東京サンシャインボーイズに参加し、83年に初舞台。卒業後、蜷川幸雄氏主宰の蜷川スタジオ入り。主な出演映画に「しゃべれども しゃべれども」(2007年)、「アウトレイジビヨンド」(12年)、「ヒキタさん!ご懐妊ですよ」(19年)、「正体」(24年)など。 ◆「劇映画 孤独のグルメ」 2012年からテレビ東京で10シリーズ放送されたグルメドラマ「孤独のグルメ」を映画化。輸入雑貨商の井之頭五郎(松重)は、かつての恋人・小雪の娘・千秋(杏)から連絡を受けてフランス・パリへ向かう。千秋の祖父・一郎(塩見三省)から「子供の頃に飲んだスープをもう一度、飲みたい。探してほしい」と頼まれ、食材探しの旅に出る。109分。
報知新聞社