「道なき道を行く」名古屋市のガバメントクラウド移行--システムの最適化が業務の効率化に
一方でガバメントクラウドへの移行は前例のないことで、誰にも相談できないことが一番の課題だったと高橋氏は振り返る。「AWSの担当者に聞くなど、とにかく道なき道を行くという感じだった。しかし、ガバメントクラウドの詳細が分からないということもあり、仮に名古屋市の基幹業務システムをガバメントクラウドではない普通のAWSに移行するにはどうしたらいいかを考えた」という。当然、ガバメントクラウドと普通のクラウドでは仕様に違いが出てくるため、細かな調整も含めて早い段階から移行の検討を始めた。 同氏は、自治体と政府の職員が参加できるコミュニケーションプラットフォーム「デジタル改革共創プラットフォーム」のアンバサダーを務めており、現在はDXに関するさまざまな情報や意見の交換ができる場となっている。しかし、名古屋市が移行の検討を始めた2022年時点ではほかの自治体に関しても検討が進んでおらず、意見交換が難しかったという。「自治体の職員よりも全く関係のない分野のエンジニアから助言をもらうことも少なくなかった」という。 基本方針を掲げて2年が経過した同市では、市役所DXを進める中で職員の意識や働き方は大きく変化したという。新型コロナウイルス感染症を契機にペーパーレス化が進み、その結果、在宅やリモートワークができる体制がつくられた。また、職員に対する研修にも注力しており、幹部を対象にしたマインドシフト/意識改革や、一般職員に向けたデジタルスキルの習得を実施している。 同氏が所属するシステム標準化グループでもクラウド人材の育成に特化した計画もあるという。単独利用方式を採用する同市では、運用を続けるために職員もクラウドの知識が必要になるということだ。既に同グループの2人がAWS認定ソリューションアーキテクトのアソシエイトを取得しており、ほかの2人も取得を目指しているという。 ガバメントクラウドに採択される事業者が複数ある中で、AWSを採用した理由を尋ねると、高橋氏は「やはり世界的なシェアがあることだ」といい、「当然シェアに比例してエンジニアも多く、知見も多い。さらに多くの先行事業がAWSだった。なのでAWSは(ガバメントクラウドの)メインになるだろうと考えた」と説明した。 他方、主たるプロバイダーにAWSを据えたが、マルチクラウドも考えていたと同氏。名古屋市では正式なガバメントクラウドの利用方針を定める前に、マルチクラウドでもできないかと事業者に情報提供依頼(RFI)を実施したが、「できる」と回答した事業者はおらず、結果としてAWSのみの利用になったという。しかし、SaaSにおいては「Microsoft 365」などのほかのクラウドサービスを使える方針を定めている。 高橋氏は、ガバメントクラウドの移行において「ガバナンスの確保、全体最適化、システムの安全稼働を目指している」という。ガバメントクラウドへの移行は、各業務が必要とする非機能要件を満たした上で、必要十分な構成を構築している。複数ある基幹業務システムの標準化を全て同様の非機能要件で構築するわけではなく、担当者が真に必要なもので構成することで全体最適化ができ、結果としてコストの削減につながることもある。 今後、AWSのガバメントクラウドに期待することとして同氏は、「基幹業務システムだけでなく、人事・給与や文書管理、電子調達などさまざまなシステムでガバメントクラウドを使うことが想定される」とし、市民がアクセスできるインターネット接続系のシステムについては、AWSのサイバー攻撃対策サービスの一部がガバメントクラウドで利用できるため効果的だと話す。また、「Amazon Bedrock」や「Amazon Q」などのAIサービスの公共分野での利用やガバメントクラウド向けのサービス拡充にも期待しているという。 ほかにも、公共サービスメッシュや国・地方デジタル共通基盤がAWSのガバメントクラウドに構築される予定だ。これに伴い、名古屋市としてはガバメントクラウドをデジタル基盤として位置付け、可能な限り各システムをAWSで検討していきたいと強調した。