吉田鋼太郎「優しさと知性に裏打ちされた強さを持っている人はカッコいい」
ライフワークとも言うべきシェイクスピア劇の新シリーズ【彩の国シェイクスピア・シリーズ2nd】を、演出・上演台本と出演の二刀流でスタートさせる吉田鋼太郎さん。「おっさんずラブ」での50歳を過ぎてのブレイクではどんな気づきがあったのでしょう? 大人の“カッコいい”を取り戻せ Vol.07
シェイクスピア作品を深く愛する吉田さんが、このたび、シェイクスピアの新たな魅力を届ける新シリーズ【彩の国シェイクスピア・シリーズ2nd】で、「シェイクスピア作品の中でも一番好き」と語る『ハムレット』を演出、自ら舞台への出演も果たします。 前編では吉田さんのシェイクスピア演劇との出会いから、恩師・蜷川幸雄さんの思い出までを伺いましたが、後編では、50代で大ブレイクしたご自身のこと、そして吉田さんが思うカッコいい大人像まで、たっぷりとお話いただきました。
“人を殺すというのはどういうことなのか”という問いがある
── ハムレットというと、国王である父親を毒殺され、その仇と母親が再婚し、苦悩する王子という暗い印象がありますが、今回のチラシの写真では、柿澤勇人さん演じるハムレットが朗らかに笑っていますね。 吉田鋼太郎さん(以下、吉田) ハムレットのビジュアルにしては珍しいでしょ? 『ハムレット』という作品は非常に有名で、常に憂いを含んだ青年の復讐劇、みたいなざっくりとしたあらすじは皆さんご存知だと思うんです。でもそれだと、当たっていなくはないけれども、僕が考えるハムレットではなくて。 最終的にハムレットは、悩まざるを得ない状況には置かれてしまうのですが、僕が思うに、本来の彼は、明るく聡明で思いやりにあふれ、自分を犠牲にしても人に幸せになってほしいと願う優しい人。こういうどこにでもいるような明るく優しい青年なんだよっていうところをまずは伝えたかったんですよね。
── そんなハムレットが、自分の父親を殺した叔父への復讐を決意するのですよね? 吉田 でも、なかなかしないんです。早く復讐すればいいのに、しないというのは一体どういうことなんだろう? と。もちろん、最終的に敵討ちのシーンになりますけども、それも実はハムレットの意思で起こったことではなく、父の仇が仕組んだ罠に巻き込まれる中で、ほぼ偶発的に復讐を成し遂げる。彼の意思で人を殺めるシーンはひとつもないんです。 となると、それは“人を殺すというのはどういうことなのか”という問いにつながるわけで。人を殺すという行為は、個人対個人の間で起きる場合もあれば、それが大きくなれば国対国の争いにつながるだろうし。つまり、人を殺すということの前で、人は一歩踏みとどまるべきなのではないかと。そのことをハムレットが、身を呈して一生懸命みんなに訴えている芝居なのではないかと僕は感じたんですよね。 ── そのハムレット役を今回、柿澤勇人さんに託したのはなぜですか? 柿澤さんとは『アテネのタイモン』(2017)や二人芝居『スルース~探偵~』(2021)で共演され、『スルース~』の大千穐楽のあとに、「柿澤はハムレットができる!」とおっしゃったとか。