3千万円、1億円超の高額な新薬 問われる費用対効果と医師の悩み
ここ10年、新しい薬剤が登場するたびに話題になるのが薬価の高額化だ。2019年認可の白血病の治療薬「キムリア」は投与が1回で済むが約3349万円、2020年の脊髄性筋萎縮症に対する遺伝子治療薬「ゾルゲンスマ」も同じく約1億6708万円だった。 日本には相互扶助で医療費を支えあう「国民皆保険制度」があり、薬剤も国で認可されれば医療保険が適用され、患者負担は1~3割ですむ。また、上限を超えた支払額を患者に戻す「高額療養費制度」もあり、患者が途方もなく高い医療費を支払わなくてもよい。こうした制度を支える国民医療費の割合は、保険料が49.4%、公費が38.1%で、残る12.5%が患者などの負担となっている。 だが、こうした制度を脅かすと言われたのが高額な薬剤だ。高額薬剤が増えれば公費や保険料の負担も増えるのではないかという声は医師からもあがってきた。 では、実際、高額な薬剤は医療費を押し上げているのか。国の懐を圧迫するというのは本当なのだろうか。
「オプジーボ亡国論」の余波
高額薬剤の問題で最初に話題となったオプジーボは、2014年7月に皮膚がんの一種であるメラノーマ(悪性黒色腫)の治療薬として承認され、2015年12月には非小細胞肺がんにも適応が拡大された。メラノーマは対象患者数が年約470人と少ないが、非小細胞肺がんは対象患者数が年約1万5000人と多かった。 2016年3月、日本赤十字社医療センターの國頭英夫氏は「コストを語らずにきた代償」と題したインタビュー記事で自説を展開した。体重60キロの肺がん患者がオプジーボを使うと1年間で約3500万円の費用がかかると推計、「日本の財政破綻が確定的となり、“第二のギリシャ”になる」と論じた。この発言を受け、全国紙には「たった1剤で国が滅ぶ」(毎日新聞)、「一剤が国を滅ぼす」(産経新聞)といった見出しが躍った。だが、まもなく医療産業政策を専門とする研究者らが國頭氏の推計は誇張を含んでいると指摘した。