3千万円、1億円超の高額な新薬 問われる費用対効果と医師の悩み
では、二木氏の言う“適正な値付け”の適正とは何を指すのか。中医協の委員を務めていた印南一路・慶應義塾大学総合政策学部教授は、薬価を判断する指標としては、その薬が適用される患者数と予想される市場規模、薬の効き目(有効性評価)などがポイントになるという。例えば、値段がある程度高くても、抜群の効き目があり、高い確率で患者が治癒している場合は、値段に見合うとみなすことができる。 その一例が2015年に発売されたC型肝炎治療薬の「ソバルディ」(当初1錠当たり6万円超)と「ハーボニー」(同8万円超)だ。この二つの年間販売額の合計は2015年度に4000億円強に上った。オプジーボの最大の年間販売額1039億円(2016年度)と競合の後発品キイトルーダの1358億円(2019年度)を足した額よりも多く、医療費増大への影響は大きかったと印南氏は証言する。 「しかし、ソバルディとハーボニーは服用するとC型肝炎がほぼ完治してしまうという、ものすごく良い薬でした。計算すると、従来の薬剤を使い続けた場合より、ずっと医療費が抑制されていた。だから、超高額薬剤については専門家の間では議論されていましたが、国民的議論には発展しなかったのだろうと思うんです」 C型肝炎の新薬の年間販売額は2年間で4分の1に減少し、その後も緩やかに減り続けている。これは、価格引き下げで総額が抑制された上、完治した人が増えることで患者数が減ったことの表れだと印南氏は見る。
それに対して、オプジーボとキイトルーダは、価格引き下げを何度も経ても、販売額は伸びている。適応する疾患が増え、使用する患者数が増え続けているからだ。この2剤の販売額の合計は、2019年度以降は年間2000億円超を保っている。 「両剤とも最近さらに薬価が引き下げられていますが、医療経済研究機構の評価は『そこそこ』。両剤ともに、薬を投与して効き目がある患者の割合は2~3割ほどにとどまるためです。つまり、費用対効果がそれほど高くない。今後は科学的に見て効果があるのか、患者や社会にとってどれくらい価値があるのかという指標でも見直しが行われていくでしょう」 そう印南氏は指摘する。じつは費用対効果で評価する試みは国でも始まっている。